野鳥の分布や渡りに大きな変化が起きている。温暖化や外来種の増加、生息地の開発の影響などが指摘されてきたが、私自身、数年前から東京郊外の武蔵野で野鳥を観察していて危機感を覚えている。
この地域はカルガモやカイツブリ、カワセミといった留鳥のほか、春にはツバメ、秋にはシベリアや中国東北部から越冬組のカモなどが飛来する。猛暑が続いた昨夏は、これまで見たことのない鳥の動作をたびたび目撃した。
カイツブリの“羽扇風機”だ。カイツブリは小型の水鳥で一日の大半を水上で過ごす。春から雌雄が協力して木々や水草を集めて浮き巣をつくり、一度に3~6個の卵を産み、雌雄交代で約3週間温めるとヒナが生まれる。
この不思議な動作を見たのは昨年7月3日。例年より梅雨明けが早く、気温は33度。前日から7度上昇した日だった。卵は35~38度以上になると死んでしまう。親鳥は異変を感じたのか、浮き巣の上に仁王立ちして羽をパタパタと扇風機のように動かし始めた。水草に含まれる水分を蒸発させ、気化熱で卵を冷やしているらしい。酷暑における野鳥の適応行動の一つだ。
■身近にひそむ生態系の危機
だがその後も猛暑が続き、残念ながら親鳥は育児をあきらめた。置き去りにされた浮き巣は卵とともに徐々に沈み、ゲリラ豪雨で流され水中に消えてしまった。
カイツブリは多産なのでそれでもヒナがたくさん生まれたが、現在、昨年生まれた数の約10分の1しか成鳥を確認できない。タカやヘビなどの外敵に狙われたほか、暑さのため水中のプランクトンや小魚の発生時期が早まり、ヒナがもっとも栄養を必要とする時期にエサが不足する「フェノロジーのミスマッチ(生物季節のずれ)」も一因と推測されている。
渡り鳥の異変も目撃した。秋から冬にかけて飛来するキンクロハジロやオナガカモ、マガモなどの集団の到着が遅れ、到着しても個体数が非常に少ないのだ。中継地となっているアジア太平洋の湿地や森林地帯の環境が悪化していることや、全国で観測されている「渡りの短距離化」が影響しているようだ。たとえばこれまでは関東まで南下していた集団が東北や北陸の不凍湖で止まる、渡りの「ショートストップ現象」である。
これは北欧やシベリアでも観測されていて、本来凍結するはずの場所でも過ごせるようになったことから、わざわざ南下しなくてもエサの確保に困らなくなったためだ。ガンの越冬地として知られる宮城県伊豆沼の生息調査でもこの1~2年、暖かくなったシベリアなど繁殖地へ戻る北帰行が早まっていることが確認されている。
日本の野鳥は1970年代、90年代、2010年代に「全国鳥類繁殖分布調査」という大規模調査が行われている。この40年で判明したのは、劇的に増加した種と減少した種があるということ。増加したのはカワウやアオサギ、外来種のソウシチョウなど。減少したのはアカモズやコマドリ、メボソムシクイなどの在来種だ。クマタカのような大型猛禽(もうきん)類が増える一方、カヤクグリのような日本を代表する小鳥も姿を消しつつある。
昨年5月には、この調査をもとに162種の分布域と個体数の動向を分析した論文が国際的な科学誌サイエンティフィック・リポーツに掲載された。国立研究開発法人森林研究・整備機構森林総合研究所の山浦悠一ら、国内外の共同研究チームによるもので、タイトルは「過去40年間の日本における繁殖鳥類の分布域と個体数の動向は、温暖な地域での潜在的な危機を示唆している」と長いが、それだけで内容を想像できるだろう。
山浦らが指摘する重要な点は、1990年代に一時的に減少した草原性の鳥類やカイツブリのような水鳥が、2010年代には分布域が回復したものの個体数は低いままだということ。つまり、分布上は戻っているように見えて内実はスカスカということだ。
これは日本の野鳥が生息場所の喪失と気候変動のダブルパンチを受けていることを示している。たとえば、西四国の森林で行われた調査では、捕獲された個体の75%が中国から持ち込まれたソウシチョウだったという。全国でも低地の温暖な地域で「在来種の衰退」が起きていることは、生物多様性の国家戦略を根本から見直すレベルだと山浦らは警告している。渡り鳥も、草原や農耕地に生息していたアカモズやシマアオジが渡りのルート上での乱獲や環境の変化で絶滅寸前だ。単にそこに鳥がいるかどうかだけでなく、どれだけの密度で生息して繁殖に成功しているかまで観察して評価し、国際的な連携のもと保全策を実施する必要がある。
野鳥保護というと、コウノトリやトキといった特定の鳥の復活に目を奪われがちだが、じつは私たちの身近な鳥たちがひっそりといなくなっている。今後は生態系を支えるインフラとしての野鳥の維持管理という視点で、野鳥保護をとらえ直す必要があるだろう。
最後に質問です。最近、スズメになかなか会えません。みなさまはどうでしょうか。
(さいしょう・はづき=ノンフィクションライター)























