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 市民への監視強化につながらないか。疑念は解消しないまま、インテリジェンス(情報活動)の司令塔機能強化に向けた「国家情報会議」創設法案がきのう衆院を通過した。

 自民党と日本維新の会の与党に加え、法案修正を求めていた中道改革連合、国民民主党など複数の野党が人権への配慮などを条件に「国家の情報力を高める」として賛成に回った。今国会で成立の見通しとなり、政府は今夏にも発足させる方針だ。

 国家情報会議は首相を議長とし、官房長官や国家公安委員長、法相、外相ら9閣僚で構成する。事務局は内閣情報調査室を格上げする「国家情報局」が担い、各省庁に情報提供を要求できる「総合調整権」を与える。情報の集約・分析を一元化し、安全保障上の重要情報や外国のスパイ活動に対応するのが狙いという。

 中道などが求めた個人情報の適正な取り扱いや政治的中立性を巡っては、付帯決議でプライバシーに配慮し、特定の党派の利益を図るための情報収集はしないなどと明記した。

 ただ決議に法的拘束力はない。政府による情報収集の権限を強化する以上、時の政権による政治利用を防ぐための運用の透明性確保や、人権侵害の歯止めとなる仕組みは不可欠だ。参院の審議で、制度設計の議論を深めねばならない。

 国家情報会議の創設は、高市早苗首相が推し進める「国論を二分する政策」の一つだ。衆院審議で首相はプライバシーや表現の自由を「侵害するとの懸念は当たらない」と断言した。だが裏付けとなる具体策には言及しなかった。

 情報活動は秘密裏に行われることが多く、国民の疑心暗鬼を招きやすい。最近では大川原化工機冤罪(えんざい)事件で行き過ぎた情報活動の実態が明らかになった。過去には、情報部門による市民運動や集会などの調査をプライバシー侵害と認定する司法判断が複数出ている。

 懸念の払拭には、情報活動を厳格に監視する独立した第三者機関の設置が必須と言える。安倍政権下で成立した特定秘密保護法では、衆参両院の情報監視審査会が指定状況を監視している。国家情報会議に対しても国会が関与して「民主的統制」を効かせる必要がある。検証可能な情報活動の記録と保存は欠かせない。

 首相が本丸と位置付けるのは、スパイ防止法の制定と諜報(ちょうほう)機関「対外情報庁」の創設とされる。調査対象がさらに幅広い市民活動に及び、思想・良心の自由や知る権利が一層脅かされる恐れもある。数の力で拙速に進めていい政策ではない。インテリジェンス機能は政権が国民を監視するためでなく、国民の安全と国益を守るものであるべきだ。