圧倒的な力を持つ大国の指導者であっても、戦争犯罪を犯せば国際法規に基づいて厳格に処罰する。人道上の「とりで」の役割を担う国際刑事裁判所(ICC)が、米国の措置で機能不全に陥る瀬戸際に立たされた。不当な圧力であり、暴挙を見過ごすわけにはいかない。
トランプ米政権が、ICCトップの赤根智子所長ら2人の制裁に踏み切った。米国内の資産を凍結され、金融システムも事実上利用できなくなる。米国への入国も原則禁じられる。「法の番人」をテロリストと同列に扱う制裁は理不尽際まりない。
ICCは2024年、パレスチナ自治区ガザへの攻撃に絡み、イスラエルのネタニヤフ首相らに逮捕状を出した。これに対し、ルビオ米国務長官は「悪意を持って権限を乱用している」と非難する。だが逮捕状は司法手続きを経た決定であり、裁判官らへの報復はお門違いだ。
これまでの制裁を合わせると、ICCの裁判官は18人中9人が対象となった。ルビオ氏はICCの「解体」すら公言し、同盟国に支援の打ち切りなどを呼びかけている。国際法違反が指摘されるベネズエラやイランへの攻撃を正当化し、移民への弾圧や今後の軍事行動の障壁をなくす意図もあるのだろう。
しかし法の支配が骨抜きにされれば、大国による力の支配がまかり通る世界が到来しかねない。米国やロシアのようなICC非加盟国であっても、被害国の訴えなどがあれば公平に裁く仕組みは不可欠だ。
ICCは23年、ウクライナ侵攻に伴う戦争犯罪容疑でプーチン・ロシア大統領に逮捕状を発行した。赤根所長はこれに関わったとされ、ロシアからも指名手配などの報復を受けている。大国に対しても、法の支配を貫く姿勢は高く評価できる。
高市早苗首相は赤根所長への制裁について「大変残念に思っている。米国などと意思疎通を継続しながら対応したい」などと述べるにとどまり、米国への直接の批判を避けた。ICCが本部を置くオランダなどが「制裁を認めない」などと強く非難し、全面的な擁護を表明したのに比べ、消極的な姿勢が目立つ。
日本はこれまで一貫してICCの活動を支援し、赤根所長などの人材を送ってきた。最大の資金拠出国でもある。平和憲法を持つ国として、法秩序の徹底を外交方針の柱に据えてきたのは理にかなっている。
唯一の同盟国である米国への気兼ねからか、高市首相はイランへの攻撃に関しても米国批判を避け続ける。手をこまねいていては国際社会の信用を失いかねない。ただちに制裁を解除し、ICCの活動を尊重するよう米国に強く求めるべきだ。
























