エッセー・評論

猫の毛まみれのキーボード

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Laughing girls(撮影・斎藤雅志)

Laughing girls(撮影・斎藤雅志)

 今年の8月はイギリスのノリッジという小さな街で過ごした。ライターズ・イン・レジデンシーという、一定の期間ある場所に滞在して、自由に執筆をする、というプログラムだ。この街には、文芸創作科が有名なイースト・アングリア大学があって、この科の卒業生にはカズオ・イシグロやイアン・マキューアンがいる。1カ月間の生活は、毎日とても楽しかった。小さな田舎町なので、皆とても親切で、心に残る会話がいくつもできた。ただ、時々、見られている、という感覚があった。

 ある時、チャイニーズのお店のディスプレイがとても素敵(すてき)だったので、ウィンドウの写真を撮っていると、60代くらいの白人男性が近づいてきて、「きみでもこのディスプレイに興味を持つの?」と聞かれた。「これはチャイニーズのお店で、私はジャパニーズだから」と答えると、彼は「なるほど、面白いね」と言って去っていった。その後ろ姿を見ながら、取ってつけたような説明をせず、ただ「かわいいから」と答えればよかったと思った。彼からしたらアジア系の人の区別はつかないのだろうし、私自身も人種の違いがすぐにわかるわけでもない。あるカフェの女性は、ほかの店員さんが紅茶とスコーンを運ぼうとして、これはどのテーブルかと聞かれた時に、あそこのアジア人女性のテーブルと、私のテーブルを指差した。自然な言い方で、嫌な気分にはならなかったし、確かに私はアジア人女性だ。そうか、私はアジア人女性なんだ、と思い出すことが滞在中よくあった。

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2017/11/4

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