コトバのチカラ
名門が復活の凱歌(がいか)を上げた。2018年12月15日、東京・秩父宮ラグビー場で行われたトップリーグ(TL)兼日本選手権決勝を制し、18大会ぶりに日本一を奪還した神戸製鋼。「ミスターラグビー」と称された故平尾誠二さんらを擁して1980年代後半から90年代に黄金期を築き、95年の阪神・淡路大震災後は低迷も味わった。栄光と苦難に満ちたチームの歴史。メンバーは先人が積み上げたレガシー(遺産)を見つめ直し、この日のフィールド脇では平尾さんの遺影が後輩たちの戦いぶりを見守った。
「高炉がなくなるんだろう。お前たちは何も感じないのか」
18年2月、ニュージーランド(NZ)。昨季TL5位に沈んだ神戸製鋼の再建を託されたNZ代表「オールブラックス」元コーチのウェイン・スミス氏(61)は、福本正幸チームディレクター(51)にそう問い掛けた。半世紀以上にわたって鉄を生み出し、震災復興の象徴とも言われた神戸製鉄所(神戸市灘区)の第3高炉は、前年10月に停止され、解体が始まっていた。
シーズンが始動した4月下旬、首脳陣や選手はその製鉄所を訪れた。高炉跡地から耐火レンガを持ち帰り、クラブハウスに飾った。「会社を代表するチームだからこそ、それを核にチームを築こうと考えた」。「レガシー活動」を進めたスミス総監督はそう明かす。
改革は徹底していた。同市東灘区の練習グラウンドは「第3高炉」、相手をはね返す防御は「スチールウォール(鉄の壁)」と名付けた。震災発生時に高炉を守るため、ショベルカーで突入した作業員に敬意を表し、各試合のチーム内最優秀選手にはその作業員の名を冠する「田中賞」としてショベルカーのミニチュアを贈るようになった。
現チームにはさまざまな国籍の外国人選手もいる。いろんな背景を持った集合体はともすればバラバラになりがちだが、前主将の橋本大輝選手(31)は「芯が通った。一人一人がきついことから逃げない『スチールワーカー(鉄工所工員)』になろうとやってきた」と言う。
選手50人超の大所帯で半数以上が出場メンバーを外れる中、勝って泣くメンバー外の選手がいた。12月2日の1回戦で頬骨にひびが入りながら、決勝の舞台に立った山中亮平選手(30)は「誰のため、何のためにプレーするのかがすごく明確になった」と実感を込める。
「長い歴史を理解しながら、アイデンティティーをつくっていきたい」と語っていたスミス総監督の下、黄金期をほうふつさせる盤石の戦いぶりで王座を奪還した神戸製鋼。名門の新たな歴史が幕を開けた。(山本哲志)
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