コトバのチカラ
6日夜の東京五輪陸上女子1500メートル決勝で、8位入賞の快挙を遂げた田中希実(21)=豊田自動織機TC、西脇工高出身。「陸上の格闘技」ともいわれる中距離種目での日本人の決勝進出は、1928年アムステルダム大会女子800メートルで銀メダルを獲得した人見絹枝以来、男女を通じ93年ぶりだ。卓越した競技力の一方で、同志社大の学生でもあり、独特の言葉のセンスは「走る詩人」と話題を集めている。(藤村有希子)
4日の1500メートル準決勝のレース後。「中学の時以来、人生2度目の気持ちに出合った」と表現した。予選で更新した自身の日本記録を中1日でさらに3秒以上塗り替える3分59秒19をマークし、思いがこみあげてきたようだ。
兵庫県小野市立小野南中3年時の全国大会では後方から追い上げ、栄冠を奪取。田中は今でも人生のベストレースに挙げ「あの時は最初から最後まで気迫をまとい、やる気の塊のようだった」と振り返る。久々にその精神状態に到達し「今後いつ、巡り合えるか。気持ちや状況は一期一会なので」とも語った。
ミックスゾーンと呼ばれる取材エリアで話を聞き終えた記者たちは「一期一会か…。あんな言葉、なかなか出てこないよ」と表現力にうなっていた。
そして決勝。1選手ずつの名前がアナウンスされ、トラックに登場する。田中の番になると軽やかに跳ねながら現れ、今大会では見せたことのない、はじけるような笑みで両手を振った。「オリンピックを楽しんでますよ、と皆さんに伝えたかった」のだという。
今大会で自身の初戦だった5000メートルで予選敗退。周囲から「あとは1500メートル1本、頑張ってね」と声を掛けられたが「1本じゃなくて2本、3本にしたいと、そこでスイッチが入った」とか。その言葉通り、予選にとどまらず準決勝、決勝までたどり着いた。
1世紀近く前に活躍した伝説のランナー、人見については「大学でも学んでいる」という。人見は、アムステルダム五輪では本命の100メートルで準決勝敗退。当初予定になかった800メートルに出場し、2位に入ったことに触れ「人見さんは急きょ出た種目で結果がこぼれ落ちてきた部分が、ちょっと私に似てる。私も5000メートルの方をすごく考えてたら(1500メートルで)こんなご褒美がもらえた」と笑う。「人見さんと並んで中距離の歴史に名を刻めたのは、本当にすごくうれしい」
一を聞けば十が返ってくるような、丁寧な受け答えが印象的だ。153センチの「小さな巨人」が編み出す言葉は、いつも光っている。
2021/8/7東京パラ 車いすテニス女子シングルス 上地結衣「悔しい。でもそう思えるなら、まだもう少しやっていける」2021/9/6
上地結衣「私が他の国の選手だったら満足していた」 国枝の「金」思い吐露2021/9/5
記者コラム<サイドライン>大矢、家族とつかんだ銀2021/9/4
上地結衣、15年続く支援の絆 スポンサー第1号は母の勤務先 東京パラ車いすテニス2021/9/2
「どうすれば一緒にできる?」 車いすバスケの北間優衣 同級生考案「私ルール」が挑戦の原点2021/8/31
「いつか両手挙げ喜べるように」男子400Мリレー、絆に触れた夜更け2021/8/8
“走る詩人”田中希実「今後いつ、巡り合えるか。気持ちや状況は一期一会」記者もうなる言葉のセンス2021/8/7
田中希実8位入賞「自分の中の常識を覆すことができた」東京五輪・陸上女子1500M2021/8/6
「たぶん、ゾーンに入ってる。オリンピックという空気に助けられて」田中希実、日本新で決勝へ 東京五輪2021/8/5
「メダルを見るまで死ねない、と馬淵先生に言われてるので」寺内健、6度目の五輪2021/8/3
阿部一二三「歴史を塗り替えた」詩「初めての感覚」兄妹で五輪制覇2021/7/25
阿部兄妹の父・浩二さん「僕らは毎日、幸せをもらっている」金メダリストの家族物語2021/7/25
フィギュアスケート・三原舞依「氷ってこんなに滑るんだ」2020/7/22
バスケットボール・森ムチャ「負ける気はしなかった」2020/6/7
ソフトボール・乾絵美「上野さんの球は、砲丸のような衝撃」2020/2/19
高校野球・明石商、来田涼斗「代替大会も甲子園の交流試合も全勝したい」2020/6/16
ラグビー・山中亮平「誰のため、何のためにプレーするのかがすごく明確になった」2018/12/16
「チームのためならウオーターボーイだってする」ラグビー世界的名手ダン・カーター、神戸を去る 2020/5/23
関学大アメフト前監督・鳥内氏「脳みその肉離れはない」活動自粛の過ごし方2020/5/11
バスケットボール・テーブス海「ウイルス終息の時に…」新型コロナ拡大を受け2020/4/23
柔道・阿部詩、一番の恩返しは「お父さん、お母さんに金メダルをかけること」2020/2/28
柔道・阿部一二三 「自分自身の柔道は…」丸山戦3連敗で決意2020/2/20
柔道・阿部一二三「絶対にやられっぱなしでは終われない」東京五輪へ黄信号2020/2/20
三浦知良52歳「現役続けるのに理由なんかない。カズのまま死ぬ」2020/2/14
イニエスタ「このクラブ、神戸の街にとって重要なタイトル」J1神戸が天皇杯初V2020/1/3
柔道・阿部詩「2番の表彰台に乗る感覚を味わえた」対外国勢無敗記録途絶え 2020/1/1
競泳・大西順子「調子が良すぎて震えた」遅咲きの大器、ゾーンを語る2019/10/2
飛び込み・寺内健「慣れないと知っていることが強みかも」6回目の五輪切符を手に2019/7/14