中国の習近平国家主席(c)zixia/123RF.COM・ロシアのプーチン大統領(c)timofeev/123RF.COM
中国の習近平国家主席(c)zixia/123RF.COM・ロシアのプーチン大統領(c)timofeev/123RF.COM

2025年9月3日、北京で開催される抗日戦争および世界反ファシズム戦争勝利80周年記念式典は、中国の習近平国家主席が主導する大規模な軍事パレードとして注目を集めている。このイベントにロシアのウラジーミル・プーチン大統領が出席する予定である。パレードには北朝鮮の金正恩総書記も参加し、1万人以上の兵士と最新兵器が披露される見込みだ。このような国際的な場でプーチン大統領が中国を訪れることは、中ロ両国の戦略的パートナーシップを象徴する出来事である。しかし、両国関係は単なる蜜月ではなく、対米共闘の側面と中央アジアを巡る地政学的競争という複雑な要素を抱えている。

中ロ関係の基盤は、米国主導の国際秩序に対する共闘姿勢にある。近年、両国は経済、軍事、外交の各分野で連携を強化している。2025年5月の習主席訪露時には、両首脳が対面会談を行い、米国の影響力拡大を批判し、協力の重要性を強調した。ロシアのウクライナ侵攻以降、中国は中立を主張しつつも、経済支援を通じてロシアを下支えしており、対米共闘の枠組みを維持している。歴史認識の共有もこの関係を支える。第2次世界大戦の記憶を活用し、両国は日本を含む「歴史歪曲」を共同で非難する立場を取っている。こうした共闘は、米トランプ政権の台頭を背景に、国際的な影響力競争で有利に働く戦略である。軍事パレードへのプーチン参加は、この連携を視覚的にアピールする機会であり、中ロ朝の結束を演出する狙いがある。

一方、中ロ関係は決して一枚岩ではない。特に中央アジア地域では、地政学的覇権を巡る緊張が顕在化している。中央アジアは歴史的にロシアの勢力圏であったが、中国の「一帯一路」構想を通じて経済的影響力が急速に拡大している。ロシアは上海協力機構を通じて地域の安定を図るが、中国の投資やインフラ整備がロシアの伝統的支配を脅かしている。例えば、カザフスタンやキルギスでは、中国の資源開発プロジェクトが活発化し、ロシアのエネルギー支配に競合を生んでいる。地経学的観点から、中国は中央アジアをユーラシア経済圏の要衝と位置づけ、デジタル金融インフラの構築を進めているが、これがロシアの影響力浸食を招いている。ウクライナ戦争の影響でロシアの中央アジア依存が高まる中、中国は欧州との「カスピ海ルート」開発を推進し、代替輸送網を構築しようとしている。こうした競争は、両国が対米共闘で協力する一方で、相互の利害が対立する典型例である。ロシアは中国の台頭を警戒しつつ、経済格差の拡大を懸念しており、関係は「戦略的パートナーシップ」の名の下に微妙なバランスを保っている。

この二面性は、中ロ関係の本質を表している。抗日戦争勝利パレードのような象徴的なイベントは、表面上の結束を示すが、裏側では中央アジアの資源や影響力を巡る競争が続く。両国は米国という共通の脅威に対処するため協力するが、長期的に見て、中国の経済力優位がロシアの地政学的地位を揺るがす可能性がある。将来的に、この緊張が共闘の限界を露呈するかもしれない。国際社会は、中ロの動向を注視し、多角的な外交で対応する必要がある。

◆和田大樹(わだ・だいじゅ)外交・安全保障研究者 株式会社 Strategic Intelligence 代表取締役 CEO、一般社団法人日本カウンターインテリジェンス協会理事、清和大学講師などを兼務。研究分野としては、国際政治学、安全保障論、国際テロリズム論、経済安全保障など。大学研究者である一方、実務家として海外に進出する企業向けに地政学・経済安全保障リスクのコンサルティング業務(情報提供、助言、セミナーなど)を行っている。