「52歳女性です。最近、亡くなった義母の家を売却しました。家の整理をする中で、老後の住まいについて不安を感じるようになりました。実家はじきに売却予定で、私名義の資産といえば、わずかな貯蓄くらい。老後の資金は足りるのか、万が一病気になったらどうしよう…不安は尽きません」
老後の住まいについて、高齢になってからでも家は借りられるのか、不安に思う方もいるのではないでしょうか。
持ち家を維持するにも修繕費や固定資産税がかかり、賃貸に移ろうとしても、高齢者という理由で断られることもあります。住まいの選択肢が限られてしまう現実を前に、将来像を描きにくいのが正直なところです。
そこで知っておきたいのが、国が支援する『居住支援法人』の制度です。住まいの不安を抱える人にとって、頼れる仕組みになりつつあります。
■高齢になってから賃貸住宅が借りられないケースとは?
「年を取ったら家を借りられない?」…これは多くの人が抱く不安で、まったくの杞憂とも言い切れません。借り手が高齢だとためらう貸し手(大家)もいます。次のような理由が挙げられます。
▽認知機能の低下への懸念
年齢とともに体力や判断力・記憶力は低下します。認知症への不安から、高齢者への賃貸に慎重になる大家もいます。
▽孤独死のリスク
人付き合いが減り孤立しやすく、孤独死は社会的な課題になっています。見守り体制の有無は貸し手にとって重要な判断材料です。
▽保証人・収入面の不安
親しい人が減る年代で保証人を確保しにくく、年金中心で収入が安定しない場合もあります。制度改正の影響を受けることもあります。
ライフスタイルの変化に伴い、高齢者夫婦世帯、高齢単身者世帯が増えてきたことも背景にあります。高齢夫婦世帯や高齢単身世帯の増加に伴い、住まいの確保は個人だけでなく社会の課題になっています。
■「居住支援法人」という新たな制度
▽住まいの課題は、福祉の課題でもある──2省庁の連携
「居住支援法人」制度は、2017年に国土交通省と厚生労働省が連携して創設されました。住宅を借りにくい人は、住まいだけでなく、生活や福祉の支援も必要とすることが多く、制度は「住」と「福祉」を一体的に捉えた政策としてスタートしました。国土交通省が住宅政策の枠組みを整え、厚労省が生活困窮者・高齢者・障がい者支援の側面から制度を後押ししています。
▽空き家約900万戸の時代に、マッチングを担う支援法人
総務省の調査によれば、全国の空き家数は2023年時点で約900万戸にのぼり、過去最多を記録しています。一方で「住む場所がない」と困っている人も後を絶ちません。このミスマッチを解消するのが、「居住支援法人」の役割です。家主との調整、物件紹介、保証人代行や家賃保証の案内、さらには入居後の見守りや福祉機関との連携など、広範な支援を地域で展開しています。
▽法人タイプによる得意・不得意
「居住支援法人」は、単なる物件紹介ではなく、生活の相談や不安に寄り添う伴走者のような存在です。現在、全国で「居住支援法人」の数は増加しており、大阪府内にも複数の法人が地域に根ざした支援を行っています。国土交通省/厚生労働省の資料によると、2025年7月時点で、全国の指定居住支援法人は1000法人体制に迫っています。
法人のタイプには、大きく分けて福祉・NPO法人系法人と建設・リノベ系法人があります。まず、福祉・NPO系法人は、生活相談や見守り支援に強みを持っており、福祉機関や行政との連携も得意としています。一方で、物件紹介のスピードが遅くなることがあり、紹介できる物件の選択肢が限られる場合もあるという弱みがあります。このような法人は、不安が多くサポートを受けながら暮らしたい方や、福祉的な支援を重視したい方に向いていると言えるでしょう。
一方、建設・リノベ系法人は、空き家を再生して低家賃の住宅を提供することを特徴としており、自社で独自の物件を保有しているケースもあります。しかし、生活支援や見守りなど福祉連携が弱いことがあり、入居後の個別対応が限定的な場合もあるという弱みがあります。このような法人は、とにかく家賃を抑えたい方や、物件の選択肢や住環境を重視したい方に適していると考えられます。
■「安心して暮らす」ための制度を、今から知っておく
居住支援法人への相談は原則無料で、年金生活者や生活に不安を抱える人でも利用しやすい仕組みです。家賃保証の手続きや見守りサービスなど、一部に費用が発生するオプションもありますが、こうしたサービスは事前に説明が行われるため、知らないうちに費用が発生する心配はありません。
また、利用者の個人情報の取り扱いについても、国が定めた基準に基づいて厳格に管理されており、秘密保持が徹底されています。支援を希望する側にとって安心して相談できる環境づくりが重視されており、「困ったときに誰にも知られずに頼れる場所」としての信頼性を支えています。
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「住まい」は暮らしの基盤であり、ライフスタイルや価値観に深く関わるものです。シニアライフを安心して楽しむためにも、早めの備えが大切。そんな中で頼りになるのが『居住支援法人』。希望するサポート内容に強い法人とつながることで、自分らしい暮らしの実現に一歩近づけます。
【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士。身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症2型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。
(まいどなニュース/もくもくライターズ)