営業職のAさんは、多忙な毎日を送っていました。その日も、ひっきりなしにかかってくる電話に対応しながら、車で次のアポイント先へと向かっていました。そんな移動中に、Aさんのスマホに重要な取引先から着信がありました。
今すぐに応対しなければならない案件です。一瞬の迷いはありましたが、Aさんは運転中にもかかわらずスマートフォンの通話ボタンを押してしまいます。
仕事の話に集中するあまり、運転への注意が散漫になっていたのでしょう。ふと顔を上げると、目の前の信号が赤に変わるのでした。Aさんは幸いにも事故に至らず胸をなでおろしましたが、この一部始終を後ろからパトカーが見ていました。
運転中のスマホ利用は、現在どのようなペナルティが科されるのでしょうか。まこと法律事務所の北村真一さんに聞きました。
■一発で免許停止になるケースもあり得る
ー罰則(違反点数・反則金)は具体的にどのくらい厳しくなりましたか
まず、スマホを手に持って通話・画面を注視した場合、「保持」と呼ばれる違反に該当します。違反点数は1点から3点に、反則金は普通車の場合、6,000円から18,000に引き上げられました。5万円以下の罰金であった刑事罰は、6ヶ月以下の拘禁刑または10万円以下の罰金に厳格化されています。
また、実際に事故を起こすなど、ながらスマホで交通の危険を生じさせた場合は、「交通の危険」とみなされ、直ちに刑事手続きの対象となります。違反点数は2点から6点に厳格化されており、一発で免許停止となります。3ヶ月以下の拘禁刑または5万円以下の罰金だった刑事罰は、1年以下の拘禁刑または30万円以下の罰金となっています。
ーどのような行為が違反とみなされますか?
道路交通法では、主に2つの行為が明確に禁止されています。ひとつは、運転中にスマートフォンなどを手で保持して通話する行為です。もうひとつは、運転中にスマートフォンやカーナビゲーションの画面をじっと見る行為です。いずれの行為も違反とみなされます。
ー運転中にスマホを手に持っているだけで、通話や操作をしていなくても違反になりますか
法律の条文上、罰則の対象となるのは「通話のために使用」したり、「画像を注視」したりする行為です。そのため、ただ単に手に持っているだけで、一切の操作や通話、画面の注視をしていなければ、厳密には違反に該当しない可能性はあります。
しかし、警察官に停止を求められた際に「操作はしていなかった」と証明するのは困難でしょう。運転に集中するためにも、スマートフォンは手に持たないのが懸命です。
ー赤信号での停車中や、渋滞で停止している間にスマホを操作するのはセーフですか
はい、これは違反にはなりません。道路交通法の条文に「当該自動車等が停止しているときを除き」と明記されているため、赤信号や渋滞などで車が完全に停止している間のスマートフォン操作は、罰則の対象外となります。
ただし、青信号に変わったことに気づかず発進が遅れたり、操作に夢中になるあまり車が少しずつ動いてしまったりすると、他の交通の妨げになるばかりか、追突事故の原因にもなりかねません。停止中であっても、スマートフォンの操作は必要最小限にとどめましょう。
◆北村真一(きたむら・しんいち)弁護士
「きたべん」の愛称で大阪府茨木市で知らない人がいないという声もあがる大人気ローカル弁護士。猫探しからM&Aまで幅広く取り扱う。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)