70代の女性が手際よく料理する動画がInstagramに投稿され、11万近いもの「いいね」を集めるなど、大きな反響を呼んでいます。「ばあちゃんの料理教室」という名前で親しまれるこのアカウントで料理をしている“ばあちゃん”は、投稿者である息子さんの〈お母さん〉。このアカウントは、認知症と診断された母のリハビリを兼ねて、息子さんが立ち上げたものです。料理という得意分野を生かしながら、日々の姿を動画で残していくことで、母の調子を整えつつ、親子の時間を記録していこうという思いが込められています。
そんな思いでアカウントを運営しているのが、無添加食品のオンラインストア「ハクライドウ」を営むハクライドウさんです。母の介護と仕事をどう両立させるか、数年にわたって模索を続けてきたといいます。
「もともとSNSはお店の広報用として始めたのですが、母のリハビリと仕事を両立させる方法を考えていく中で、今のスタイルにたどり着きました」と、ハクライドウさん。
アカウントで料理の動画を紹介してきたハクライドウさんですが、母の意識がしっかりしてきたことで、転機が訪れます。
「せっかくなら思い出を残したいと思ったんです。母の料理を動画として発信内容に加えれば、自分の仕事(店の広報)にもつながるし、母と一緒に過ごす時間も増やせるのではと考え、母に料理をお願いすることにしました」
こうして、「ばあちゃんの料理教室」は、母のリハビリと親子の思い出づくりを目的とした活動として、本格的に動き出しました。
カメラの前で料理をするという「仕事」が、お母さんの日常に加わりました。リハビリの一環として始めた取り組みは、次第に母にとっての生きがいへと変わっていったといいます。
「動画を撮っているときはあまり意識していない様子でしたが、ライブ配信で視聴者から直接コメントをもらうと、やりがいを感じているようでした。テレビや新聞の取材を受けたり、YouTubeで101人に選ばれたりと、普通では経験できないことも楽しんでいたようです」
中でも大きな反響を呼んだのが、「とろとろキャベツのチーズソース」の調理動画です。シンプルな材料で作れる手軽さや、ばあちゃんの落ち着いた手つきも話題を呼び、11万近くの「いいね」が寄せられました。「簡単!やる!」「おばあちゃんに作ってもらってた味に似てる」など、共感の声も多く集まりました。
「『実際に作ってみました。おいしかったです』というように、動画を見てくれた方が行動に移してくれることが、やはり一番うれしいです」と、ハクライドウさんは話します。
活動を続ける中で、フォロワーとのつながりも深まっていきました。レシピ本を出版した際にはたくさんのお祝いコメントが寄せられ、またお母さんが入院した際には、多くのフォロワーが励ましの言葉を送ってくれたそうです。
「フォロワーさんがいなければ、この活動は続けられなかったと思います。とてもありがたい存在です」
コメント欄には、「おばあちゃんのあの味が懐かしいけど、もう作ってもらえないから見ています」「おばあちゃんの家に来たみたいで落ち着く」といった声もあり、このアカウントが多くの人にとって、心のよりどころになっていることが伝わってきます。
一人の息子による親孝行から始まった小さな料理教室は、お母さんの生きがいとなり、いまでは多くの人の心を温めるコミュニティへと育っています。