のんびりと草を食む姿からかわいいと親しまれている「シカ」。しかし実際には、森林や農作物に深刻な被害を与えているといいます。また、それだけでなく今後人間の生活や命にも大きく関わってくる可能性があるのだとか…。そんな現場を取材したYouTube動画が51万回以上も再生され、大きな反響を呼んでいます。動画を投稿したのはYouTubeチャンネル「野食ハンター茸本朗(たけもとあきら)ch」を運営している、茸本朗さん(@hunter.takemoto)です。
動画を制作したきっかけは、有害鳥獣の駆除を本業にしているハンター仲間のシーキチンさんからの一言でした。茸本さんは、「シーキチンさんから『今もっとも問題だと思うのはシカだ』と言われました。予想外の発言で、一体どういう理由なのかと気になり、現場に伺いました」と取材の経緯を振り返ります。
■シカによって緑が食い荒らされて
この日同行したのは三重県の山。実際に同行した現場で目にしたのは、想像以上の被害だったといいます。
「林床の下草がシカの食害で丸裸になってしまっていました。そこには今後土砂流出が起こる兆候も見えていて、非常に恐ろしかったです」
本来であれば山の土壌は木や草の根が守ってくれるため、雨によって流れることはそんなにないといいます。しかし、シカによって緑が食い荒らされて地面が露わになってしまうと土砂が流れやすくなり、「土砂崩れ」が起こってしまうのだといいます。
これは人の命にも関わる大きな災害の原因になり得るとシーキチンさんは動画内で警鐘を鳴らします。
■相当以上の頭数が…
また、捕獲されるシカの頭数にも茸本さんは驚かされたといいます。前日に罠を16個しかけており、この撮影中に実際に罠にかかっていて捕獲できたシカは9頭。しかも、茸本さんと解散後、かかっていなかった罠にもさらにかかっていて合計11頭になったとシーキチンさんから聞かされたといいます。
その捕獲率からも山にいるシカの多さがわかりますが、なんとシカは1年で1.2倍に増えると言われているのだそう。あまりのシカの多さと被害の大きさを目の当たりにし、「本当に深刻なんだ…と実感した」と茸本さんは話します。
動画の序盤でシーキチンさんに「今日何頭持って帰ってもらえます?」と聞かれた際にも驚いたそうですが、とにかく想像以上の数の多さだったと振り返ります。
■捕獲されたシカの行方は
さらに現場で教えてもらって茸本さんが驚いたというのは、捕獲されたシカの多くが食用として流通していないという事実でした。
捕らえたシカを食肉にしない(できない)理由は2つあるといいます。まず1つ目は、食べ切れないくらい捕れること。2つ目は、食肉として販売するためには止め刺しをした後、自治体などによって定められた規定時間内(主に1~2時間以内 ※参考:日本ジビエ振興協会)に処理施設に持ち込まなくてはならないという基準が定められていることでした。
「この話を聞いた時、最初は『もったいない』と思ったんです。でも実際の狩猟を目で見て、活用のことを考えて駆除が遅れてしまったら本末転倒だと感じました」と茸本さんは語ります。
「法律の緩和が進めば活用の道も広がる可能性はあるかもしれない」としたうえで、「とはいえ、非常に難しい問題。今では『活用できないことを問題にすること自体が問題ではないか』と考えています」と率直な思いを明かしました。
■「野食ハンター」として食べてみた
チャンネル名にも「野食ハンター」とあるように、普段から様々な野生のものを食べては動画で紹介している茸本さん。今回駆除したシカの肉も食用にもらって帰り、動画の終盤でそれを実際に調理して紹介していました。
この日はメスのシカの狩猟数が多かったこともあり、シーキチンさんにオススメされたというのは、一般的に流通しない珍しい部位「乳腺」。
「鹿肉自体はジビエとして知られているので、わざわざ美味しさを紹介する必要はないと思いました。そのうえで、普段食べられない部位を食べられるのは狩猟者の特権だと考え、乳腺を取り上げました」と話します。
気になるその味については、「予想していたより乳臭さや獣臭が少なく、柔らかくて美味しかったです。臭み消しにバターと焼肉のタレを使ったのも功を奏しました」との感想でした。
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この投稿には多くの視聴者の声が寄せられましたが、特に印象に残ったのは狩猟者からのコメントで、「『自分も狩猟者だが、この動画のコメントで「残酷だ、かわいそうだ」と責める声が少なくて嬉しかった』というものだと話します。
また、一般の視聴者からは「想像以上に深刻な話だということがわかりました」「すごく勉強になりました」といった感想も届き、問題意識を共有するきっかけになったのだそう。
最後に、茸本さんは今回の動画で最も伝えたいことについて「狩猟者は商売のためだけではなく、社会を守るために活動している方も多い。その現状をこれからも紹介していきたい」と話します。