50代の専業主婦Aさんのひとり娘には、大学時代から付き合っている彼氏がいます。彼は大学卒業後、地元企業に就職したもののわずか1カ月で退職。その後アルバイトを続けているようですが、稼いだお金のほとんどをパチンコにつぎ込み、貯蓄はゼロの様子です。一方娘は仕事は大変なようですが、日々頑張りコツコツと貯蓄をしています。
Aさんと娘との関係は良好なのですが、娘の彼氏について話すと「親には口を出してほしくない」と距離を置きたがります。親としては、このままだと娘の貯蓄がパチンコに使われるのではと心配です。娘の将来を案じて「別れさせたい」と思っているのですが、娘とどう接すれば良いのでしょうか。コミュニケーションコンサルタントの鮎永麻琴さんに話を聞きました。
■「別れさせたい」と思ったとき、まず必要なのは“信頼関係”
-ギャンブル依存の彼氏と付き合う娘に対して、どのように声をかけるべきでしょうか
親の思いをストレートにぶつけるだけでは、娘の心はむしろ閉じてしまうことが多いのです。とくに恋愛の渦中にいる時期というのは、「親に反対されたら、むしろ守りたくなる」「私が変えてあげる」といった心理が働きやすく、真っ向から否定するとかえって相手との結びつきが強くなるリスクもあります。
だからこそ、まず大切なのは「あなたの味方だよ」という姿勢です。娘が悩んだとき、判断に迷ったときに“戻ってこられる場所”として、信頼の土台を整えておくことが先決です。
-本人が自分で判断できるように導くために、親はどんなサポートをすべきでしょうか
「どう思ってる?」ではなく「どう感じてる?」と聴くことが大切です。
会話をするときは、“考え”を問うよりも、“感情”に寄り添う言葉を意識すると効果的です。たとえば、
・「あなたがどうしたいか、ちゃんと聞きたい」
・「最近、彼といてどんな気持ちになることが多い?」
・「困ってることがあれば、話してくれて大丈夫だからね」
こうした質問は、相手の内面に自然に目を向けさせ、自分自身で気づくきっかけになります。親が判断を下すのではなく、娘自身が「本当にこの人でいいのか?」と立ち止まるプロセスを支えるのが理想です。
■ギャンブル依存症は「意志の弱さ」ではなく「病気」
多くの人が誤解しやすいのですが、ギャンブル依存症は単なる「遊びすぎ」「意思が弱い」のではなく、れっきとした精神疾患です。本人が自覚していなかったり、うまく嘘をついたりすることもあるため、周囲の支援がとても難しくなります。
依存症は家族やパートナーも巻き込む“関係性の病”とも言われます。娘が「彼を支えたい」「私がいないとダメになってしまう」と思っている場合、すでに共依存的な関係が始まっている可能性もあります。この段階では、親も“巻き込まれすぎない”ことが大切です。
そのかわり、親自身が依存症に関する正しい知識を持ち支援先を探しておくことはとても有効です。親としてできるサポートは「どうするべきかを教えること」ではなく、娘が自分のペースで気づき、決断できるよう環境を整えることです。
「ちゃんと決断してくれるように導こう」ではなく、「決断する力を取り戻すために、娘の足場を整えてあげる」という考え方が、結果的に最善の選択につながることが多いのです。
◆鮎永麻琴(あゆなが・まこと)
大学時代にはプロスノーボーダーとしてW杯に出場し、世界ランキング20位を記録。卒業後は国際線CAとして13年間勤務。現在は、コミュニケーションスキルコンサルタントとして多くの人の悩みに向き合う。2020年にはTEDxFukuokaで「自由への切符」というテーマで登壇。
(まいどなニュース特約・長澤 芳子)