えっ、なんで泣いてるの!?
えっ、なんで泣いてるの!?

人の感情はときに予測不能で、思いがけない場面で周囲を驚かせます。その代表例ともいえるのが「涙もろさ」です。感動の名場面や卒業式で涙を流すなら理解できますが、明らかに泣くポイントではない場面で号泣する人もいます。

■パンダ返還ニュースで号泣する謎

先日、A子さん(50代)の家で、パンダが中国に返還されるというニュースが流れました。動物園で「ありがとう」と涙を流す来園者たちの映像が放映され、その様子を見たA子さんも突然リビングで鼻をすすりながら涙を流していました。

「え?お母さん、そんなにパンダ好きだったっけ?」と思わず驚いた家族が尋ねると、「違うの。この人、もうパンダに会えないなんてかわいそうで」との返答。

つまりA子さんは、パンダではなくインタビューを受けた女性に感情移入して泣いていたのです。他人の涙を見て泣き、その涙を見てまた誰かが泣く--。思わず「涙のマトリョーシカ人形か」と突っ込みたくなります。 

■ドラマのあらすじを泣きながら報告する謎

Tさん(40代)は、女子会仲間と、今見ているお気に入りのテレビドラマについて語るのが大好きです。

Tさんは、放送中に泣くだけでなく、そのあらすじを説明するときにも泣きます。「主人公の育った環境が……かわいそうで……」と鼻声で語り始め、最終的には号泣。

聞いている周りの人たちは内容よりも感情の揺れ幅の方が気になってしまいます。

■校歌だけで泣けるという謎

極めつけは、野球をまったく知らないというKさん(50代)。甲子園の勝利校の校歌を聞くだけで毎回泣いてしまうそうです。野球のルールも知らず、試合も見ていません。ただ、校歌を歌う球児たちの姿を見ると「熱い青春と努力の結晶を感じて胸がいっぱいになる」と語ります。

努力を知らずに努力の結晶に泣けるという、その感情の仕組みは理解不能です。校歌のメロディーがKさんの涙腺を直接刺激しているかのようで、もはや球児たちより泣いているのではと思ってしまいます。

■自転車廃棄で大げさな最終回

Uさん(40代)は、10年間乗った電動自転車を廃棄するとき、涙がとまらなかったそう。「育児の相棒だった」「自転車の前後に娘と息子を乗せて、保育園に通ったのよ」と言い、引き取り業者のトラックの荷台に載せた自転車を見送る際、脳裏にはドナドナが流れ、今までの育児の思い出が走馬灯のように駆け巡り、涙が止まらなかったそう。

そこにあるのはただのパンクしたまま数年間放置されていた自転車。なのに彼女にとっては感動巨編のラストシーン。近所の人にとっては「引き取り業者のトラックを見えなくなるまで見送っている人」に首をかしげたに違いありません。

■涙腺弱者選手権の中で

科学的には、感情によって涙を流すのは人間特有の能力だといわれているそうです。涙は「助けが必要です」というサインであり、共感を呼ぶ武器にもなるそうです。あいにく、筆者の涙腺は砂漠化が進み、オアシスすら消滅しているようです。だからこそ、すぐに涙を流せる彼女たちの存在が羨ましいのかもしれません。その感受性を少し分けて欲しいと思う今日この頃。あなたの周りにも、「涙腺ゆるゆる族」の方はいませんか?

(まいどなニュース特約・松波 穂乃圭)