223系0番台もGTO・VVVFからIGBT・VVVFに更新されている
223系0番台もGTO・VVVFからIGBT・VVVFに更新されている

国土交通省は9月、鉄道分野のGXに関する官民研究会での議論を踏まえ、「鉄道分野のGXに関する基本的考え方」を公表しました。このレポートでは、これからの鉄道車両の目指す方向性が把握でき、興味深い内容となっています。

■2035年の鉄道車両はどうなる?

そもそも、「鉄道分野のGXに関する基本的考え方」にある「GX」は、「グリーントランスフォーメーション」の略語です。簡単に説明すると、従来の化石燃料型から、クリーンなエネルギー型の経済・社会構造にするための取り組みを指します。GXは脱炭素の実現と経済成長の両立を目指しています。

国は「官民一体で鉄道分野でのGX投資に取り組む必要がある」として、脱炭素効果の高い次世代型車両・関連設備の導入・普及を強力に推進する、としています。そこで国は、主要鉄道事業者(JR、大手民鉄、地下鉄事業者)に対して「省エネ」「燃料転換」「再エネ」の3項目にわたって目標を示しました。

ここで、注目したいのは「省エネ」の2035年までの目標項目です。2035年までに、「高能率車両・機器への置き換えにより、原則として全列車のVVVF化を完了」。同時に、非VVVF車両および初期のVVVF車両(GTO方式)の置き換えが明記されています。

もちろん、国が何のサポートもなく、鉄道事業者に目標を示したわけではありません。国・関係団体等に対しては、高能率化や次世代燃料を利用した車両・設備の導入に向けた支援制度の検討が盛り込まれました。

■JRや大手私鉄などから「うぃーん」とうなる電車がなくなる

ここからは、「初期のVVVF車両(GTO方式)の置き換え」に絞って見ていきます。そもそも、VVVF車とは、VVVFインバータ制御装置を有する車両のことを指します。電車はスピートを調整するために、電気を送り出す力をコントロールするための機械、制御装置を備えています。

電車の制御装置、ならびにモーターは時代と共に進化してきました。昭和の時代の電車のモーターは、直流モーターでした。昭和後期から、メンテンナンスが容易な交流モーターが導入されました。交流モーター導入を実現した機械が、VVVFインバータ制御装置です。VVVFインバータは、お好みの電圧と周波数の交流の電気をモーターに送り込めます。

VVVFインバータも時代と共に進化してきました。初期のVVVFインバータに使用されたのは、GTOサイリスタでした。GTOはVVVFインバータの普及に貢献しましたが、欠点も存在します。それは、VVVFインバータ動作時に発生する「うぃーん」というノイズ「励磁音」が、大きいこと。励磁音はVVVFインバータが作る交流の揺らぎや歪みに起因します。この揺らぎや歪みが、モーターの鉄心を膨張・収縮させることにより、独特の音が発生します。

またGTOは、現在主流のVVVFインバータ(IGBT、SiC)よりも、駆動電力が多いことも欠点です。VVVFインバータは、GTO、IGBT、SiCの順に発展しました。細かな説明は省きますが、励磁音は小さくなり、駆動電力も少なく、機器自体も小型化しました。

現在、GTO・VVVFインバータの車両は次々とIGBTやSiCへ更新しています。国の方針に従うと、2035年までに、少なくとも主要鉄道事業者からは「うぃーん」というGTO・VVVFインバータの音が、「平成の音」として過去帳入りすることでしょう。

(まいどなニュース特約・新田 浩之)