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 大相撲の関脇安青錦(あおにしき)=本名ダニーロ・ヤブグシシン、安治川部屋=が九州場所で初優勝を果たし、日本相撲協会の番付編成会議と臨時理事会で大関昇進が決まった。安青錦はウクライナ出身の21歳で、欧州出身力士の優勝は4人目、同国出身の優勝も大関昇進も初めてとなる。初土俵から所要14場所での大関昇進は、年6場所制になった1958年以降に初土俵を踏んだ力士で最速(付け出しを除く)という快挙だ。初優勝も尊富士に続く2位の速さである。

 安青錦は7歳で相撲を始め、ロシアがウクライナに侵攻した2022年の春に来日した。角界の環境になじむとともに努力を重ね、わずか3年半で賜杯を手にした。

 優勝と大関昇進は、本人が望むように、戦禍に苦しむ郷里の人たちを勇気づけることだろう。現地からは「子どもたちの希望になった。久しぶりの明るいニュースだ」との弾んだ声が届いている。母国を離れてつかんだ栄誉をたたえたい。

 千秋楽では大関琴桜を破り、横綱豊昇龍との優勝決定戦に臨んだ。持ち味の前傾姿勢を崩さない攻めで横綱の背中を取り、見事な送り投げを決めた。自己最多12勝での優勝で、直近3場所の合計は34勝となった。目安となる33勝を上回り、文句なしの大関昇進だ。今年春場所の新入幕から5場所連続で11勝以上を挙げるなど、抜群の安定感を誇る。

 相撲内容は正攻法と称賛される。相撲協会の八角信芳理事長も「体が小さいのに相手と見劣りしない。貪欲さがある」とし、低い姿勢を保つ取り口について「天性のもの。背筋の強さがないとできない」と評価する。本人は「まだ伸びしろがあると思っている」と話しており、さらなる躍進が期待される。

 兵庫県、関西とのゆかりも深い。関西大相撲部主将だった山中新大(あらた)さんと国際大会で知り合い、その縁で来日した。神戸にある山中さんの実家に下宿し、同部や西宮市の報徳学園高校で汗を流した。相撲人生が神戸で始まったと聞くとうれしい。

 昇進伝達式で安青錦は「大関の名に恥じぬよう、また、さらに上を目指して精進いたします」と口上を述べた。大関の責任を自覚し、堂々と綱とりに挑んでもらいたい。

 大相撲は、入場券が2年連続で全90日間完売を記録するなど「若貴ブーム」以来と言われるほどの活況が続いている。今年、モンゴル出身の豊昇龍と石川県出身の大の里が横綱になり、注目を浴びた。安青錦の昇進で琴桜とともに東西の大関がそろう。ここに若手が加わり、さらに相撲人気が高まるに違いない。それぞれが持ち味を生かし、後世に残る名勝負を繰り広げてほしい。