お迎えから2カ月、家族を癒やす大切な存在になったちいちゃん(画像提供:ちーちゃん-Mari-うるちゃんさん/Instagram)
お迎えから2カ月、家族を癒やす大切な存在になったちいちゃん(画像提供:ちーちゃん-Mari-うるちゃんさん/Instagram)

元保護猫の女の子「ちい」ちゃんの飼い主さんは、病により余命がわずかとなり、大切な愛猫を託せる里親さんを探していました。その知らせを受け取ったのは、Xユーザー・ちいちいうるうるさん(@chii1003uru0724)夫婦。当時、ペットロスで深い悲しみに沈んでいましたが、その知らせをきっかけに、再び運命の歯車が静かに動き始めました。

■一刻を争う里親探しーー再び、心が動いた

飼い主さん夫婦に転機が訪れたのは、2017年11月下旬のことでした。夫の同級生がSNSで子猫の里親を探している投稿を見つけたのです。これまでにも何度か里親の話はあったものの、夫婦は「次の子を迎える」という一歩をなかなか踏み出せずにいました。

「8年前に飼っていた猫を亡くしてから、新しい猫を迎える気持ちになれずにいたんです。その子は、夫がエレベーターでへその緒がついたばかりの状態で見つけて保護した子猫でした。病院では『生きられないかもしれない』と言われましたが、必死にミルクをあげて育て、16歳まで生きてくれました」

深い喪失感を抱えながら過ごす時間は、夫婦にとって心を立て直すために必要な年月でもありました。そんなある日、夫から子猫の話を聞いた瞬間、胸の奥に微かな灯りがともったといいます。

「なぜか迷いはありませんでした。『引き取りたい』という気持ちが自然と湧き、『いいよ! うちの子にしよう』と伝えました。すぐに同級生へ連絡し、お迎えしたのが、生後推定2カ月のちいでした」

やがて、ちいちゃんの背景も伝えられました。もとの飼い主さんは病を患い、余命がわずかになったことで、一緒に暮らす猫たちの保護を依頼されていたこと。そして保護に向かったときには、飼い主さんはすでに亡くなっており、猫たちだけが取り残されていたという事実でした。

「家の中は荒れ果て、環境はとても悲惨だったと聞きます。そんな中で子猫たちが生まれていて、兄妹たちは順に里親さんが決まっていきました。そのなかで一番体の小さかったちいが、うちの子として来てくれたんです」

小さな命がつながり、また次の家族へ手渡されていくーーその“リレー”の先に、ちいちゃんと飼い主さん夫婦の出会いがありました。

■まるでずっと家族だったように… 元気に走り回るちいちゃん

ちいちゃんが家族のもとへやって来たのは、2017年12月3日のことでした。待ち望んだ「その日」を前に、飼い主さんは胸が高鳴ったといいます。

「ちいが車に乗って我が家へ来てくれました。キャリーから出てきたちいは、怖がることも人見知りする様子もなく歩み寄ってきて、『遊んで』と甘えるようにして、本当にすぐに馴染んでくれました」

初日とは思えないほど自然体で、家族のそばを行き来し、安心しきったように眠り、抱っこされたままうとうとする姿も。小さな体に残る環境の痕跡ーー鼻の汚れが取れるまで少し時間はかかったものの、その日から家の空気は大きく変わっていきました。

「リビングで元気いっぱいに遊んで、息子に抱っこされたまま寝たり、サイレントニャーをしてくれたり…。まるで前からこの家にいたかのようでした。ちいが来てから我が家は明るくなり、会話も増えました」

日々がちいちゃん中心に回るようになり、外出をためらうほど一緒に過ごす時間が愛おしくなったといいます。

「お留守番の日には『今何してるかな? 泣いてないかな…』と仕事中も気になって、帰宅して無事に待っていてくれる姿を見るとホッとしていました。家族全員が親バカになり、生活はすっかり『ちいファースト』です」

その愛情は、家のつくりにまで表れていきました。リビング横の和室は、いつの間にか「ちい専用の猫部屋」へと変身し、夫もおもちゃやおやつを欠かさず買って帰るように。

「外へ行かなくても幸せな気持ちになり、毎日ちいに癒されています。本当に感謝の気持ちでいっぱいです」

■どうか長生きしてほしいーーちいちゃんへ寄せる願い

7歳になったちいちゃんは、今も穏やかでおっとりした性格のまま。誰に対しても優しく、初対面の人にも自然にあいさつできる、柔らかな心の持ち主です。

「ちいは一度も猫パンチをしたり噛んだり、『シャーッ』と威嚇したこともありません。誰にでも近づき、『ニャーン』と挨拶して、知らない人に抱っこされても平気なんです」

川沿いに住む家ならではの安全への備えとして、幼い頃からハーネストレーニングも始めました。無理をさせず、安全を第一にしながらの練習は今も続いています。

「雨の日以外は、家の前や裏の空き地など、車が通らない場所で歩かせています。『行こう』と鳴いて知らせてくれるようになり、その姿を近所の方も温かく見守ってくれてとてもありがたいですね」

ちいちゃんと呼ばれ、地域でも愛される存在に。ユニークな一面も多く、掃除機でブラッシングされるとゴロゴロとのどを鳴らして喜ぶというめずらしい特技ももっているそうです。

「人間の食べ物には一切興味がなく、テーブルに料理を出しても手を出したことがありません。教えたわけでもないのに、本当に賢い子だと思います」

また、ちいちゃんは、小さな頃から日常の動作にひとつひとつ声をかけてきたことで、言葉の意味を理解するようになったといいます。

「『ご飯食べるよ』『2階に行くよ』『掃除するよ』と話しかけていたら、反応し、ついてきてくれるようになりました。何かしたい時も鳴いて誘導してくれるんです。言葉は話せなくても、心でちゃんと通じ合っている気がします」

どんなにつらい出来事があっても、ちいちゃんがそばにいるだけで心が軽くなるーー飼い主さんにとって、まさに小さなセラピストのような存在です。

「ちいが来てから、どんな時でも癒やされて元気を取り戻せます。本当に感謝しています。愛しくてたまらない家族です。いつか別れが来る覚悟はありますが、一日でも長く生きてほしい。『うちの子で幸せだった』と思ってもらえたら、それ以上の幸せはありません。『うちの子になってくれてありがとう。大好きだよ、ちい。これからもよろしくね』と毎日声をかけています」

(まいどなニュース特約・梨木 香奈)