(この連載は、WHOの自殺報道ガイドラインに則り、精神医療の専門家の助言を受けています。記事中、個人名の敬称は省略しました)
「業務時間中にうそ八百含めて、文書を作って流す行為は公務員としては失格です」
2024年3月27日。
知事のパワハラなど七つの疑惑を記した告発文書を兵庫県知事、斎藤元彦が最初に取り上げた記者会見。それを見た県議の竹内英明がつぶやいた。
「ゲシュタポみたいやな」

ゲシュタポとは、ナチスドイツの秘密警察のことだ。県当局の動きは速かった。告発文書を作成したと疑われた西播磨県民局長(当時)のパソコンをすぐに回収し、交流のあった職員には私用の携帯電話のライン(LINE)のやりとりまで提示させた、との情報が竹内の耳に入っていた。
告発文書の送り先は10カ所。その中に竹内も入っていた。
後に政治団体「NHKから国民を守る党」党首の立花孝志らは、この事実をもって竹内が「自作自演した」と主張する。だが、同僚県議や家族、職員によれば、この時点で竹内は元西播磨県民局長の連絡先すら知らなかった。
■徐々に変わり始める風向き
文書を目にした竹内は、「これはやり方を間違えたら大変なことになんで」「爆発すんぞ」と漏らした。疑惑について当局がきちんと調べ、説明を尽くさなければ、事態は収まらないと感じていた。
当初は「(県議会が調査する)百条はそう簡単に開けるもんやない。不信任なんてあり得へん」と周囲に語っている。
だが4月以降、疑惑の一部が報道で事実と確認され、県議会に51年ぶりの百条委員会設置が決まると、「地方議会で百条委員の委員になるなんて、人生で考えてなかった。これはやらせてもらうわ」と受任を決めた。
「県民と職員を守るためにやるんや」。同僚県議にそう繰り返していたという。
7月に告発者の元西播磨県民局長が自死するとメディアの注目度は一気に高まり、兵庫県政の問題は、テレビやインターネット上でも「コンテンツ」として消費されていく。
民放各局は「おねだりパワハラ知事」とテロップを踊らせて特集を組み、在京のテレビ関係者は「大谷翔平より斎藤さんの方が数字がいい」と苦笑まじりに語った。
ワイドショーでは百条委員の竹内が知事や県当局の対応をただす姿が連日流れ、「竹内県議さん、ありがとうございます」「発言はすばらしかった」といった書き込みとともに竹内のブログの閲覧数も跳ね上がった。

この頃、県庁内からは「竹内先生、頑張ってください」「助けてください」とエールやSOSが集中し始める。
「嫌われているはずの自分を頼ってくる職員がこんなにいる」。竹内は意気に感じた様子で同僚県議の迎山志保に語り、「これはちょっともう許されん」と、知事への対決姿勢を強めていった。
すでに斎藤の不信任や「ポスト斎藤」を模索する水面下の動きは県議会にあった。
だが、竹内はほとんど政局に関心を示さず、連日、職員らとの情報交換のために遅くまで県庁に残った。
職員への証人尋問では、「知事に呼ばれたとき、あなたの目を見て机をたたいたか」「私が聞いたところでは、(机を)平手で2回たたいていたんです」と、事前に集めた情報をぶつけ、パワハラの「一線」を越えたかどうかを追及した。
「あの人は、自分の仕事を『悪者退治』だと思っている人だった」と迎山は振り返る。
「職員たちは、社会通念上必要な指導ではなく、理不尽な叱責を受けたと証言している。これをパワハラと言うんじゃないですか。ご自身は今でもパワハラをお認めにならないんですか」
竹内の問いに、斎藤はこう答えた。
「必要な指導だと思っていましたけれど、そこはやっぱり不快に思われた方とか、負担に思われた方がいるのであれば、本当に心から反省しておわびしたいと思います」
「不快に思われた方がいるなら」という仮定を前提とした謝罪だった。
竹内は間髪を入れず重ねる。
「知事、ここはパワハラを認めて反省するってことじゃないんですか」
このやりとりは後に百条委の映像とともにX(旧ツイッター)で拡散され、8月下旬には「知事より竹内議員の方がパワハラではないか」「恫喝のように聞こえる」といった批判が目立ち始めた。
さらに9月中旬、姫路ゆかたまつりを巡る発言に「デマの発信源ではないのか」との疑義が投げかけられ、「デマを吹聴する県議」といった表現もSNSで飛び交った。
百条委の追及者だったはずの竹内自身が、いつのまにか「疑惑」の目を向けられる側に引き寄せられていた。
風向きが、徐々に変わり始めた。(「民意×熱狂」取材班)
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