高齢の両親の大喧嘩、巻き込まれた子供たちは…
高齢の両親の大喧嘩、巻き込まれた子供たちは…

高齢の夫婦は、長年連れ添った末に穏やかに支え合って生きている。そんなイメージを抱いている人は少なくないでしょう。しかし現実は、必ずしもそうではありません。

東京都在住のDさん(40代後半)は、70代後半になる両親の大喧嘩に巻き込まれ、「老後の夫婦問題が、これほど子どもを消耗させるものなのか」と痛感しました。感情が爆発するのは親世代、後始末を背負わされるのは娘世代。その構図は、想像以上に過酷なものでした。

■些細な一言が引き金に─「今さら離婚する」が現実味を帯びた瞬間

きっかけは、本当に取るに足らない一言だったといいます。しかし長年積もり積もった不満が一気に噴き出し、夫婦の口論は歯止めが利かなくなりました。

母は「もう我慢の限界」「今さらだけど離婚する」と声を荒らげ、父も一歩も引きません。言葉は次第に荒れ、感情は制御不能になっていきました。

問題は、喧嘩をしている当事者が若くないことでした。父には軽度の認知機能の低下が見られ、母はこれまで一人暮らしをした経験がありません。その母が、怒りに任せて日が落ちた夕方、自家用車で家を出ようとしたのです。

■「事故か、行方不明か」最悪の想像が頭をよぎった娘たち

実家の隣に住む次女が真っ先に感じたのは、感情論ではなく現実的な恐怖でした。

暗い時間帯の高齢者の運転、行き先不明、興奮状態。このままハンドルを握らせれば、事故や行方不明につながりかねない。そう判断し、姉のDさんに連絡を入れ、ひとまず電車でDさんの家へ向かうよう母を必死に説得します。

怒りが収まらない母を最寄り駅まで送り届け、Dさんは駅で母を迎えました。「このまま事件や事故につながることだけは避けたい」。それが娘たち共通の本音でした。

気づけば、親の感情の暴走を止める役割を、40代の娘たちが一身に背負わされていたのです。

■伝書鳩と相談役を同時に担う娘世代の消耗

一方、実家に残った次女は、父の怒りと不安をなだめます。「怒りに任せて暴言を吐いてしまった」「この家はお母さんにやってもいいんだ」「俺が出て行ったほうが良かったんじゃないか」

その頃、Dさんの家では母からの愚痴が止まりません。「お父さんは最近すぐ切れる」「野垂れ死ねと言われた」「もうあの家には帰りたくない」「最初から結婚は失敗だった」。

娘たちは、完全に伝書鳩とカウンセラーの役割を担うことになりました。どちらかの肩を持つことはできず、ただ話を聞き、なだめ、状況を整理する。その負担は、想像以上に重くのしかかります。

■感情では済まされない「老後の離婚」という現実

Dさん姉妹は、両親が本気で離婚を望むのであれば、それも選択肢として否定はしません。しかし、現実は甘くありません。

住まいはどうするのか。年金は分けられるのか。財産管理は誰が担うのか。父の認知機能がさらに低下した場合、介護は誰が引き受けるのか。

考え始めると、問題は芋づる式に噴き出します。当事者である両親は感情に支配され、冷静な話し合いができません。その結果、調整役として矢面に立たされるのは、必然的に子ども世代です。

■「年を取れば丸くなる」という思い込みが崩れ落ちた夜

親が高齢になれば、自然と穏やかになる。そんな思い込みは、あっけなく崩れ去りました。むしろ体力や判断力が落ちる分、感情の爆発は周囲を激しく巻き込みます。

高齢者の夫婦喧嘩や別居は、当人同士だけの問題ではありません。子ども世代の生活、仕事、心を、確実に削っていくのです。

老後の夫婦関係は、静かに終盤へ向かうとは限らない。Dさんにとって、この夜はその現実を突きつけられた忘れがたい一夜となりました。

(まいどなニュース特約・松波 穂乃圭)