父から娘に衝撃の一言「おまえ、老けたな」
父から娘に衝撃の一言「おまえ、老けたな」

久しぶりに実家へ帰ると、思いがけない一言に戸惑うことがあります。鏡を見れば十分に年齢を重ねた自分が映っているのに、父の目にはどうやら別の姿が見えているようなのです。そこには驚きと同時に、親子ならではの奇妙な時間のズレが潜んでいました。

■日課のテレビ体操で飛び出した一言

埼玉県在住のSさん(50歳)の両親は、現在76歳と74歳です。朝のテレビ体操が日課で、決まった時間になるとリビングに並び、画面の前で真剣に体を動かしています。帰省中のある朝、その様子を眺めていると、テレビの中の女性講師を見ながら、76歳の父が言いました。

「このおばさんさ……」

間髪入れず、74歳の母が冷静に返します。

 「おばさんなんてよく言うわよ。この人、Sちゃんよりだいぶ若いわよ」

画面の中の講師はどう見ても30代~40代前半です。動きはしなやかで、表情もはつらつとしており、簡単そうに見える体操でも、体がすっかり凝り固まった50歳のSさんには到底まねできそうにない運動を軽やかにこなしています。つまり、年齢だけでなく体の機能面でも、明らかにSさんより若い印象です。

それでも父の口からは「おばさん」という言葉が出ました。父の中で、Sさんはいったい何歳のままなのでしょうか。

■「いくつになった?」と聞かれて

その疑問を強く意識したのは、別の帰省のときです。玄関先で顔を見るなり、父は言いました。

「おまえ、老けたな。いくつになったんだ?」

率直すぎる言葉に苦笑しつつ、Sさんは近況も添えて説明しました。

「今年で50歳だよ。息子は年明けには成人式だから」

子どもが成人を迎える年齢になれば、自分も相応に年を重ねているはずです。ところが父は、「孫が20歳」という事実よりも、「娘が50歳」という数字に強く反応しました。

その言葉に軽く衝撃を受けながら、「50歳だよ」とあらためて答えると、父は本気で目を見開きました。

「もうそんなになるのか?」

まるで初めて聞いたかのような驚き方でした。

■父の中で止まった娘の年齢

思い返せば、父にとってのSさんは、七五三の着物姿で写真に収まっている少女であり、入学式で緊張していた学生であり、結婚式で涙を浮かべていた花嫁です。 色あせた写真が、いまも実家の壁に飾られています。節目の記憶は鮮明でも、その後の年月は連続した時間として更新されていないように感じます。

だからこそ父は、実年齢ではなく、心の中に保存された“娘の年齢”を基準にしているのです。

Sさんは白髪染めの頻度が増え、老眼鏡を探す日常を受け入れています。一方で父の中では、娘はどこかで時間が止まったままです。そのため「もう50歳」という事実が、毎回新鮮な驚きとして現れるのでしょう。

「老けたな」と言われるたびに複雑な気持ちになります。しかし同時に、父の記憶の中で若いままの自分が存在していることを思うと、不思議な温かさも覚えます。

実年齢と親の中の年齢。その差に戸惑いながらも、Sさんは今日もまた、父の中で更新されない娘であり続けています。

(まいどなニュース特約・松波 穂乃圭)