救急車に乗ったら追加で7700円必要? ※画像はイメージです(nkm03/photoAC)
救急車に乗ったら追加で7700円必要? ※画像はイメージです(nkm03/photoAC)

深夜、突然の腹痛に襲われた40代男性のAさんは、あまりの痛みにベッドの上でうめき声をあげます。これに驚いたAさんの同居家族は、慌てて119番へ通報しました。しばらくして到着した救急車に運び込まれたAさんは、近くの病院に搬送されます。

検査の結果、緊急性の高い病気ではなく、薬の処方で済む程度の胃腸炎であることが判明しました。Aさんは医師の診断結果を聞いてひとまず安心したものの、会計窓口で「選定療養費として7700円の支払いをお願いします」と言われ、Aさんは思わず聞き返します。

救急車で搬送されることで追加料金が必要になるとは思っていなかったAさんは、そのときに初めて搬送先の医療機関で選定療養費という費用が発生する場合があることを知りました。それと同時に「次に何かあったとき、費用が心配で救急車を呼ぶのをためらいそう」と不安を抱きます。

救急搬送後に費用が発生する仕組みはどのようなものなのでしょうか。また、救急車を呼ぶかどうかはどのように判断したらいいのでしょうか。X(旧Twitter)やnoteで情報発信をしているADHDの救急医さん(@ER_Dr_Papa)に話を聞きました。

■救急車は無料ではない?その理由とは

-救急車で運ばれた後に選定療養費が請求されることがあるのはなぜですか?

選定療養費は、紹介状なしに大病院を受診した場合にかかる費用として設けられた制度です。「軽い症状でもとりあえず大きな病院へ」という流れが続くと、本当に重篤な患者への対応が手薄になってしまいます。その負担を分散するため、かかりつけ医を経由せず直接大きな病院を訪れた患者に、保険診療とは別に自己負担を求める仕組みです。

これは、救急車に限らず、自家用車等を用いて自力で救急受診した場合にも適用されます。救急車で運ばれる患者の中には、緊急性が高くないケースも一定数含まれており、その結果として大きな病院に軽症患者が集中してしまう可能性があります。

こうした状況を受け、一部の地域や医療機関では、救急外来受診後に選定療養費を適用する取り組みが始まりました。救急車の利用そのものではなく、診察を行った医療機関が徴収する費用である点は、誤解されやすいところです。

-請求される場合とされない場合は、何が違うのでしょうか?

ポイントは、救急車を呼んだ時点で緊急性があったかどうかです。結果として軽症だったとしても、呼んだときに緊急性のある状況であったと担当医に判断されれば、請求されないケースがほとんどです。

結果が軽症だったから請求されるわけではないので、本当につらいときや不安なときは呼んだほうがよいでしょう。なお、この制度を導入している地域や病院はまだ一部に限られています。

-費用が心配で救急車を呼ぶのをためらう人が増えることを、救急医としてどう感じますか?

選定療養費が頭をよぎって、本当に必要なときに躊躇してしまう人が出てくるのは、医療現場としては避けたい事態です。救急車を正しく利用するのは大切ですが、お金がかかるから呼ばないという判断はしないでほしいと思っています。

脳卒中や心筋梗塞など一刻を争う病気は、数分が命取りになることがあります。非常事態のときは呼ぶという判断を優先してください。先にも述べましたが、結果が軽症であっても「救急要請した状況が妥当」と判断されれば請求されないことがほとんどです。

ー呼んでいいかどうか迷ったときの判断基準を教えてください。

迷ったときは「#7119」に電話しましょう。救急安心センターにつながり、看護師や医師に症状を伝えると、救急車を呼ぶべきかどうかをアドバイスしてもらえます。

ただし、突然の激しい頭痛、胸の痛み、半身のしびれや麻痺、ろれつが回らない、意識がもうろうとしているなど、明らかにいつもと違う症状がある場合は迷わず呼んでください。

ーこの制度について、現場の医師としてどう感じていますか?

救急車の適正利用を促す方向性自体は重要ですが、現在の「担当医が個別に徴収の有無を判断する」という仕組みには課題も感じています。医師の判断によって費用が発生するとなると、患者さんの不満が現場の医師に向きやすくなり、もっとも大切な「患者と医師の信頼関係」に影響が出かねません。

医師が目の前の治療のみに専念できるよう、例えば「一律で徴収する」あるいは「病院の規定として自動的に決まる」など、患者さんと医師の間に不要な摩擦を生まない制度設計が、今後のより良い形ではないかと個人的には考えています。

◆ADHDの救急医 救急集中治療専門医/ADHD当事者/3児の父
「ADHDの人生は自己分析次第」だと思います。初期の自己分析により家庭教師や塾無しで公立小中高から医師になることができました。医療の専門知識と、ADHD・子育ての現場でしか見えない視点の両方を対話した記事を書いています。Xやnoteでは、ADHDの生存戦略や子育てのマインドを本音で深掘りして発信しています。ブログでは小児救急や家庭医療の実践知を伝えています。

(まいどなニュース特約・長澤 芳子)