大好きなウルトラマンとも会えたという一馬くん(青木さん提供、Instagramよりキャプチャ撮影)
大好きなウルトラマンとも会えたという一馬くん(青木さん提供、Instagramよりキャプチャ撮影)

「一馬の最期のお散歩。特別なことじゃなくて、何気ない日常に幸せを感じました」

そんな言葉とともに7月2日、Instagramへ投稿された一本の動画が、多くの人の涙を誘っています。

投稿したのは、群馬県で付き添い入院中の家族を支えるキッチンカー「fufufu-soup」を運営する青木佑太さん(@familycamper3000)。

映っているのは、バギーに乗った青木さんの長男・一馬(かずま)くんが塀の上の猫を見つけ、「猫がいるね」と両親と会話を交わす、ごくありふれた散歩の風景。しかし、この映像が撮影されたのは、一馬くんが亡くなる前日のことでした。

一馬くんは急性リンパ性白血病のため、2019年10月11日に4歳8カ月で天国へ旅立ちました。2018年11月、3歳で急性リンパ性白血病を発症。一度は寛解したものの翌年4月に再発し、医師から余命半年を告げられ、およそ1年にわたる闘病生活を送りました。病室では大好きだったウルトラマンとの対面という夢もかなえ、小さな体で最後まで病気と向き合いました。

青木さんは、6年以上もの間、この映像を公にすることができなかったといいます。その理由を聞きました。

■「笑顔よりつらさが勝る映像」それでも公開した理由

動画では、一馬くんが猫を見つけて立ち止まり、家族が「猫がいるね」「逃げちゃうかな」と優しく話しかけます。飛行機を探したり、帰り道でもう一度猫を見つけたり…その時間は、どこにでもある親子の散歩でした。

しかし青木さんは、この映像を長い間、公にすることができませんでした。

「亡くなる前日に撮ったこの映像は、これまでずっと自分たちの中だけにしまっていました。笑顔の一馬ではなく、つらさのほうが勝っている動画だったからです」

それでも今回公開しようと決めたのは、この映像もまた「嘘偽りのない最期の日常」だったからだといいます。

「大切な思い出でもありますし、この動画を見た方に『今の自分の生活はとても幸せなんだ』と感じてもらえたらと思いました」

改めて映像を見返すと、胸に込み上げてきたのは「当たり前」だと思っていた時間の尊さでした。

「当たり前だと思っていた散歩の時間が、実はかけがえのない時間だったのだと強く感じました。一馬が猫を見つけて立ち止まる姿や、何気ない会話を交わす様子など、当時は特別だと意識していなかった一つひとつの瞬間が宝物のように感じます」

■「普通の日常」を取り戻せた、家族3人だけの時間

あの日の散歩は、青木さん夫妻と一馬くん、3人だけで過ごした貴重な時間でした。

「優里南(ゆりな)が昼寝をしていて祖父母が見てくれていたのか、詳しくは忘れてしまいましたが、とにかく3人で過ごせた、とても貴重な時間でした」

一馬くんは入院中から、バギーで散歩に出かけることが大好きだったそうです。病気と向き合う毎日の中で、外へ出て風を感じることは、家族にとって特別な意味を持っていました。

「外に出て風を感じたり、季節の変化を一緒に見たりする時間は、私たち家族にとって『普通の日常』を取り戻せる、とても大切なひとときでした」

猫を見つけること。飛行機を探すこと。秋の風を感じること。

そのすべてが、一馬くんはもちろん、家族にとってもかけがえのない時間になっていました。

「猫を見たり、飛行機を探したり、風を感じたり、秋を感じたり。どれも当たり前のようだけれど、当たり前じゃないことを教えてくれていました。もうすぐこれを感じられなくなることを予感していたようにも思います」

■「一馬も一緒だから5人ぎゅー」 今も家族の真ん中にいる存在

一馬くんが旅立ってから6年9カ月。時間が流れても、一馬くんは今も家族の中で生き続けています。

「今でも家族の会話の中に自然と一馬の名前が出てきます。私がよく一馬の写真や動画を見ているので、娘たちも一緒になって見てくれるんです」

長女・優里南ちゃんは、家族で抱き合うたびにこんな言葉を口にするそうです。

「一馬も一緒だから5人ぎゅーだね」

その一言に、青木さん夫妻は何度も心を救われてきました。一方、一馬くんが亡くなった後に生まれた次女にも、不思議な出来事があります。

「言動がとても似ていてびっくりしています。最近は声までそっくりで、『今、一馬そっくりだったね』と夫婦で笑い合うことも多いんです」

また、青木さん自身も講演会やキッチンカーの活動中、一馬くんがすぐそばで応援してくれているように感じる瞬間があるといいます。

「実際に近くに感じることがあります」

目には見えなくても、家族にとって一馬くんは、今も変わらず大切な存在です。

■「一人じゃない」 付き添い家族へ届けたい温かい食事

現在、青木さんは群馬県内で、付き添い入院中の家族を支えるキッチンカー「fufufu-soup」を運営しています。活動の原点は、一馬くんの闘病中、自分たちが経験した苦労でした。

「付き添い入院中は、自分たちの食事が後回しになりがちでした。コンビニ食やカロリーメイトで済ませる日が続き、体調を崩すこともありました」

病気の子どもに寄り添うことに精いっぱいで、自分たちのことは後回しになる…そんな経験をしたからこそ、「同じ思いをしている家族の力になりたい」と考えるようになりました。

「週に一度でもいいから、温かい手作りの食事を食べてほしい」

その思いを形にし、2022年10月、キッチンカーでの活動をスタート。偶然にも、その日は一馬くんの命日だったといいます。

「初出店の日が一馬の命日だったことは今も忘れられません。一馬がつないでくれた縁だと感じています」

現在は「おうえんチケット」(※)の仕組みを通じて、多くの支援者が付き添い家族を応援しています。青木さんが一番届けたいのは、「温かい食事」だけではありません。

「一人じゃないと感じてほしいんです。付き添い中は孤独を感じやすい。でも、おうえんチケットを通して、こんなにも応援してくれる人がいることを知ってもらえたらと思っています」

※「おうえんチケット」は、支援者が前払いで購入し、その思いを付き添い入院中の家族へ届ける仕組み。病院で寝泊まりしながら子どもに付き添う家族は、食事が後回しになりがち。チケットを利用することで、無添加・グルテンフリーの温かいスープやカレーを味わえるだけでなく、「一人じゃない」という応援の気持ちも受け取ることができます。

■「思い出を増やせるのは、今しかありません」

今回の投稿には、同じように家族を亡くした人や、闘病中の子どもを支える親たちから数多くのコメントが寄せられました。

「勇気をもらいました」「活動を応援しています」

そんな声に背中を押され、青木さんは改めて発信を続けていこうと決意したといいます。そして最後に、子育て中の家族へこんなメッセージを送ってくれました。

「私は一馬との思い出は、もう増えていきません。でも、皆さんは大切な人との思い出を増やすことができます」

未来のために働くことも大切。忙しい毎日を過ごすことも必要。それでも、ほんの少しだけ手を止めて、大切な人と過ごす時間をつくってほしい。

「死ぬ時に、あの世へ持っていけるのは思い出だけと聞いたことがあります。毎日忙しいと思います。未来のために働かなければならない。でも、その手を少しだけ、大切な人との時間をつくることに傾けてほしいです」

そして、静かにこう続けました。

「その大切な人とは、必ずいつかお別れします。そして、それがいつになるのかは誰にも分かりません。お互いに後悔の少ない人生を歩んでいきましょう」

猫を見つけて立ち止まり、飛行機を探し、秋の風を感じた、あの日の何気ない散歩。青木さんにとって、それは失われることのない宝物であり、今を大切に生きる理由になっています。

(まいどなニュース特約・渡辺 晴子)