介護保険の自己負担割合が変更になるとき※画像はイメージです(mapo/stock.adobe.com)
介護保険の自己負担割合が変更になるとき※画像はイメージです(mapo/stock.adobe.com)

30代、会社員の松本さん(仮名)は、遠方に住む70代の父親の介護費用を一部仕送りしています。ある月、父親のケアマネジャーから届いた請求書を見て、松本さんは目を疑いました。これまでは月々約1万5000円だったデイサービスや福祉用具のレンタル費用が、なんと4万5000円近くに跳ね上がっていたのです。「サービスの回数は増やしていないのに、なぜ急に請求額が上がったのだろう……」と、松本さんは大いに戸惑いました。

実はこれ、所得の増加によって介護保険の「自己負担割合」が引き上げられたことが原因でした。働いている世代にとって「年収の壁」は馴染み深い言葉ですが、親の世代、あるいは将来の自分にとっても、介護保険における「所得の壁」は家計管理に直結する極めて重要な問題です。

■なぜ急に請求額が上がる?介護保険の「自己負担割合」の基本

介護保険サービスを利用した際、利用者が窓口で支払う負担割合は、個人の所得に応じて1割・2割・3割の3段階に分かれています。これは、少子高齢化が進む中、介護保険制度の持続可能性を確保するため、一定以上の所得がある方には2割、さらに高い所得がある人は3割を負担する仕組みへと段階的に改定されてきました。

多くの人は「1割負担」というイメージを持っているため、所得の変動や世帯状況の変化によって負担割合が2割や3割に上がると、同じサービスを受けていても支払う金額が2倍、3倍に跳ね上がります。これが、「ある日突然、請求額が上がった」とパニックになってしまう大きな要因です。

■徹底整理!1割・2割・3割負担を分ける「所得ライン」の分岐点

では、具体的にどのような所得があると負担割合が変わるのでしょうか。基準となるのは、65歳以上(第1号被保険者)の方の「合計所得金額」と、公的年金等の収入金額とその他の合計所得金額を合わせた額の組み合わせです。なお、課税となる老齢年金は所得とみなされますが、非課税である障害年金や遺族年金は所得に含まれません。

単身者の場合、3割負担(現役並み所得)となるのは、合計所得金額が220万円以上、かつ「公的年金等の収入金額とその他の合計所得金額の合計」が340万円以上。2割負担(一定所得以上)が、合計所得金額が160万円以上220万円未満、または、合計所得金額が220万円以上だが「公的年金等の収入金額とその他の合計所得金額の合計」が280万円以上340万円未満。1割負担(一般所得など)となるのは、合計所得金額が160万円未満、または自己負担割合2割・3割の基準に該当しない方です。

なお2人以上世帯の場合、本人の合計所得と世帯の公的年金等の収入金額などにより、自己負担割合が変わってきます。

以下の両方に当てはまる場合は、自己負担が3割となります。
・65歳以上で、本人の合計所得金額が220万円以上
・本人を含めた同一世帯の65歳以上の方の年金収入と、その他の合計所得金額の合計が463万円以上

2割負担の基準は、3割負担の基準に該当しない人のうち、
・65歳以上で、本人の合計所得金額が160万円以上
・本人を含めた同一世帯の65歳以上の方の年金収入と、その他の合計所得金額の合計が346万円以上
の両方を満たしている場合となり、上記の3割負担・2割負担の対象にならない人は1割負担となります。

見落としがちなのは、生命保険の満期保険金や解約返戻金、個人年金の一時受け取りなども、受取額と払込保険料との差額などによって所得が発生する場合があり、翌年の負担割合に影響することがあるという点です。また、株式や投資信託の売却益・配当金についても、確定申告の内容によっては所得判定に影響する場合があります。

■親の収入・資産で家族の実質負担はどう変わる?家計への影響

介護保険では、要介護度によって1~3割の自己負担で利用できるサービス利用の上限額が設定されています。これを「区分支給限度基準額」といい、例えば、要介護2の区分支給限度額は約20万円です。この区分支給限度基準額いっぱいまで介護サービスを利用している場合、1割負担なら月2万円の支払いで済んでいたものが、3割負担になると月6万円になります。年間で計算すると、24万円から72万円への増加となり、その差額は48万円にも上ります。

なお、区分支給限度基準額を超えても介護サービスを受けたい場合、超過分については全額自己負担(10割負担)となります。

ここで知っておきたいのが「高額介護サービス費」という負担軽減制度です。負担割合が3割に上がっても、1カ月の自己負担の合計額が一定の基準(課税所得380万円未満の世帯であれば、4万4400円など)を超えた場合、超えた分が後から払い戻される仕組みがあります。ただし、払い戻しを受けるには、お住まいの自治体への申請が必要です。

■毎年8月に見直し!「知らなかった」で損をしないための情報収集

介護保険の自己負担割合は、一度決まったら一生そのままというわけではありません。実は毎年8月に、前年の所得に基づいて判定の見直しが行われます。

この見直しに伴い、毎年7月中旬から下旬にかけて、自治体から「介護保険負担割合証」が、サービス利用者のもとに郵送されます。ここには、その年の8月1日から翌年7月31日まで適用される負担割合(1割~3割)が明記されています。これを事前に確認しておくことが、トラブルを防ぐ最大の対策です。

■仕組みを知って事前の備えを

請求額に驚いた松本さんはすぐに父親の元を訪れ、7月に届いていた「介護保険負担割合証」を確認しました。すると、確かにそこには「3割」と記載されていました。原因を調べたところ、父親が前年に古い土地を売却し、一時的な譲渡所得が発生していたことが判明したのです。

そのためすぐにケアマネジャーに相談し、「高額介護サービス費」の申請手続きを行うとともに、サービスの優先順位を見直し、必要な支援を残しながら月々の自己負担を抑える方向でケアプランを調整しました。これにより、仕送り額の急増を最小限に抑え、家計のパンクを回避することができました。

このように「なぜか分からないけれど高くなった」と慌てる前に、まずは親御さんのもとに届く負担割合証を毎年夏に必ずチェックする習慣をつけましょう。

【監修】勝水健吾(かつみず・けんご)社会福祉士、産業カウンセラー、理学療法士 身体障がい者(HIV感染症)、精神障がい者(双極症2型)、セクシャルマイノリティ(ゲイ)の当事者。現在はオンラインカウンセリングサービスを提供する「勇者の部屋」代表。    

(まいどなニュース/もくもくライターズ)