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(11)隣保の意味 再建に欠かせない福祉
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長田・御菅地区から
 神戸市長田区・西代の仮設住宅で一人暮らす文小連さん(81)は、心臓に持病がある。震災後、ホームヘルパーの訪問を受けるようになった。

 六月、担当のケースワーカーが、長らく、ふろに入ってないという話を聞いた。「ふろ場が狭い。手すりはあるけど、足腰が痛く一人では入られへん」と文さんは訴えた。

 神戸市の外郭団体「こうべ市民福祉振興協会」の派遣で、火、木曜の週二回、ヘルパーが入浴の介助にやってくる。「ありがたいことです」と、さっぱりした顔で頭を下げる。

 以前、御蔵通の長屋に一人住む文さんの世話をしていたのは、近くにいた娘さん(43)だった。買い物や銭湯の出迎えをしていた。

 地域には二十年余り、「一人暮らし老人訪問活動」もあった。隣保を訪ね、無事を確かめる。話し相手にもなった。「娘さんが来られへんときは私に頼みよ」と長屋の人たちも声をかけた。二、三日、こもり切りの時など、「風邪でも引いたんか」と訪ねてきた。

 「みんな親切で仲が良かった。一人でも不安はなかった」と文さん。

 しかし、震災は、生活の周辺をがらりと変える。

 娘さんは、病院の送迎や買い物はできるが、自身も仮設住宅で暮らし、夫の親もまた被災した。家族や地域で支え合った下町の崩壊は、ヘルパーの存在を欠かせないものにした。

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 市民福祉振興協会が十月、神戸市長田区で派遣するホームヘルパーは二百七十七世帯で、震災前より六十三件減った。

 仮設住宅が数多く建った神戸市西区は八十八から百八十五世帯と倍以上に増えた。うち約八十が仮設で、同協会福祉部西部事務所の冨田忠雄所長は「ボランティアの訪問で助かっている部分が多いが、仮設の需要は高まるだろう」と話す。

 西神ニュータウン南端の西神第7仮設は、千六十戸が広がる。自治会とボランティアが調べたところ、一人暮らしは半数。高齢世帯が実に多い。平均年齢は約六十五歳。支援活動をしているのは阪神高齢者・障害者支援ネットワークだ。

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 神戸市は、震災後の新たな対応として市民福祉復興プランを作成。三カ年計画で、特別養護老人ホームや在宅支援センターの緊急整備などを掲げる。

 長田福祉事務所の霜川卓之さんは「地域の再開発と福祉サービス拡大は並行して進めるべきだ」と指摘。「高齢者ケアセンターながた」の中辻直行施設長は話した。

 「お年寄りが自由に集まれる場所や、日帰りで健康チェック、日常動作の訓練などを受けるデイサービス施設が、高齢者向け公営住宅に併設されれば、地域のコミュニケーションを保ちながらケアができる」

 御菅地区は、この「ケアセンターながた」に近く、地域福祉センターも火災を免れた。しかし、それで福祉は十分か、とまちづくり協議会は検討している。

 近く、区画整理の事業化が決まる神戸市長田区の鷹取東第一地区の住民は、福祉部会をつくり、防災拠点にもなる福祉施設の具体的な内容やコミュニティーを生かした施策の検討を始めた。

 地元に施設はなく、建設を市に要望した。回答は「今後、建設の際は候補地として検討する」としただけ。「行政の動きを待っていては間に合わない」。住民はそう考えていた。

1995/10/27
 

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