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(17)住宅は建つか 元いた地に…願い強く
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長田・御菅地区から
 十月三十一日、被災者向け公的賃貸住宅の申し込みが一斉に始まった。

 仮設から恒久住宅へ。最初のまとまった募集で、約六千百戸。関心は高く、兵庫県住宅管理課には連日百本以上の問い合わせ電話がかかっている。

 御菅地区の住民も申し込みを検討していた。

 「希望にぴたりと合う場所はないが、とにかく申し込んでみる」と深田利信さん(68)は話した。菅原通三丁目の自宅は全焼し、夫婦で北区の長女宅で暮らす。いずれは菅原通に戻るつもりで、そのワンステップにしたいという。

 垂水区の仮設住宅で一人暮らす女性(77)も前向きに考えていた。御蔵通の長屋再建のめどはない。「家賃は少し高いと思うが、何とか道を切り開かないと。長田か周辺に入居できればいいのだが」

 仮設住宅と同じように、やはり元いた場所の近くに住みたい、と希望する声が多かった。

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 十月に決まった国の二次補正で、被災者向け公的住宅三万千五百戸の建設費が計上され、今年度予算は計約七万戸分となった。「兵庫県の三カ年計画七万七千戸の九割を確保した。やるだけのことはやった」と、建設省は胸を張った。

 住宅の数、中身、家賃、場所は被災者の希望を満たすものになるのだろうか。神戸市住宅局の担当者は「量は何とかなると思うが、問題は場所」と話した。

 同市は十月三十一日、次回以降の募集になる二十団地の発注を発表したが、震災後に新規着工する公営住宅はまだ約千八百戸。うち被災した既成市街地の建設は約五百六十戸である。

 「市有地を使い、何とか確保した。既成市街地の用地は買収して確保しなければならないが、非常に厳しい」と担当者。小さな住宅やアパートの跡地では、中高層の市住は建たない。まとまった土地はなかなか見付からない。

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 下町再建で、神戸市復興計画は、地域別の案を盛り込んでいる。下敷きになったのは一九八九年、市がつくったインナーシティ総合整備基本計画だ。下町が抱える人口減少、高齢化、住環境の悪化などの問題は次第に深刻化していた。

 住環境の整備は、住民の自主的なまちづくりを支援しながら老朽長屋、木造アパートの建て替えを段階的に進めるとしていた。緩やかに老朽住宅の解消を図る計画だったが、下町の住宅は一挙に消えた。

 「今回の区画整理は、従来の区画整理とは違う。住宅の再建を同時に図らなければならないからだ」と、市都市計画局は言う。

 しかし、住宅再建の新しい制度はない。密集市街地整備促進事業▽住宅市街地総合整備事業▽優良建築物等整備事業などは、おおむね「共同化」の支援で、補助も「共用部分」に限られる。個人補償に当たる施策は取らない、とする国の姿勢は貫かれている。

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 十月二十一日夜、御蔵通五、六丁目の町づくり協議会役員会が開かれた。

 「地元に安い公営住宅はいつできるのか。どれだけできるのか」

 「どれだけの土地を買収できるかにかかっている。まだ分からない」

 この日も、市担当者とのやり取りは繰り返しに終わった。会長の白崎弘二さん(65)は言った。「住民が一生懸命頑張ってまちづくり案をつくっても、最終的に土地がない、住宅が建たない、では協議会が踊らされただけになる」

 きちんと帰ってこられるという保証がほしい、住民は、そう強く願っていた。

桜間裕章、松岡健、柴田大造、大野さち子、岡本昌弘)=第六部おわり=

1995/11/3
 

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