■長田・御菅地区から
「あとでするケンカなら先しておこうと思ってな」と、菅原商店街でカツオ節店を営む高田太さん(66)は、威勢がよかった。
プレハブ応急住宅が多い御蔵通、菅原通三、四丁目の区画整理地区で、高田さん方は数少ない本建築だ。棟上げは三月二日、一カ月足らずで完成した。
着工まで幾度も神戸市都市計画局へ足を運んだ。「どんな家ならいまでも建てられるか」「建てた後、移転すれば補償があるのか」と確かめるためだ。
「区画整理が始まったら移転はする。その代わり、ちゃんと補償料は出すか、と念を押した。職員が『事業に伴う移転費は出します』と言うから建てたんだ」
都市計画局が四月、区画整理対象の住民に配ったまちづくりニュースには、「区画整理Q&A」があった。同様のことが書かれていた。だが、記載は簡単でしかなかった。
少し離れた御蔵通三丁目で、米穀店主の山田勇さん(67)は、十五坪(五十平方メートル)の土地に、木造二階の店舗兼住宅を建築中だった。住み心地を考えれば木造、と千五百万円を超す費用を決断した。
「補償額は分からないし、区画整理がいつ始まるか見当もつかない。でも建設費の領収書があれば、移転補償は出ると聞いているからね」。領収書は額の算定には関係ないのだが、山田さんはそう思っていた。
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区画整理対象地域にかかる建築制限の網。建設が可能なのは、応急仮設、二階建て以下の木造、鉄骨、コンクリートブロック造りなどだ。言い換えれば、撤去が容易な建物である。
だが、何年住めるのかはっきりしない。資金の手立て、資産価値のこともある。御蔵通の会社員信川忠義さん(53)は、考えた末、二階建てプレハブを選んだ。
「それでも五百万円かかった。せっかく建てても移らなあかんと思えばね」
会社員二星徹章さん(48)は、二月に平屋のプレハブを建て、内装も自分でした。「補償が出るなら木造にしたらよかった。プレハブだと年月がたつにつれ、価値はどんどん下がるだろう」と、少し後悔する口ぶりだった。
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住民が関心を持つ移転補償額の算定には、「現価率」の表が使われる。
新築時を百として、移転時の使用価値を率で示す。移転時、同じ建物をつくるにはいくらかかるか、をはじき、現価率を掛けるなどして額を出す。塀、植木なども対象になる。コンテナ住宅など、従来の基準にないものは検討課題。更地には一切の補償はない。
例えば、耐用年数二十年の木造応急住宅なら、築十年の現価率は六〇%。事業計画決定後、市が個々に調べて換算するが、区画整理課は「いろんなケースがあり、一概には言えない」と話す。
神戸市長田区の鷹取東地区では、事業計画決定に向け、一番早く動きが進む。移転補償について、地元の協議会と市は、「今後、当事者と査定の内容を十分に説明し、納得を得て進めていく」と記した確認書を交わしている。
木造建物の現価率表も八月、住民に配布された。「事業開始まで再建を見合わせた方がいいのかどうか、われわれでは判断つかない」と、協議会が強く求め、市は押し切られるような形で出した。
1995/10/19