兵庫県尼崎市三反田のケア付き仮設住宅で一人暮らす吉田朝子さん(77)は朝、新聞記事に目をとめた。
兵庫県が復興住宅の中で、コレクティブハウジング(共同居住型集合住宅)を手掛けるという記事だった。「あと一年で行き場がない。こんな住宅が本当にできればいいのに」と思った。
ケア付き住宅は、個人スペースとして一間とトイレ、簡単な炊事場がある。建物の真ん中に共同の炊事場と食堂。ヘルパーが食事や入浴などの手助けをする。
「好きなときに食事もできる。ヘルパーさんがいて安心できる。今ほど安らかに気兼ねなくできることはなかった」と吉田さん。が、仮設後のことが頭から去らない。「老人ホームに行くしかない。だけど施設はいろんなルールがあって束縛されるでしょう」
今の生活の延長線上に、コレクティブハウジングを思い描いている。
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兵庫県によると、コレクティブハウジングは、東部新都心の県営住宅内で約百戸を計画している。
個室があって、食堂、リビングルームなど共用スペースがある点は、ケア付き仮設と同じだが、福祉サービスや家賃などは検討課題として残っている。
担当者は話す。「基本的には自立して生活できる人が対象で、生活のルールも居住者で決めるのが原則。そのために仲の良いグループごとに応募してもらうなど、新しい募集を考える必要があるかもしれない」
福祉サービスには「相談に乗る生活援助員は考えられるが、それ以上のサービスになると、福祉施設と同じになってしまう」とも言う。
神戸市もモデル的に取り組む方向だが、住宅局担当者は「福祉サービスの中身のほか、国の建設補助などクリアしなければならない課題は多い」とする。
厚生省は九六年度予算で、グループリビング支援モデル事業を打ち出している。障害者や痴ほう性老人らが集団生活するグループホーム制度を、高齢者に拡大する発想だが、現行では、施設にも、福祉サービスにも、コレクティブハウジングに国の補助制度はない。
震災後の厳しい財政状況の中で、自治体にはサービス充実に及び腰の姿勢ものぞく。
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大阪に事務所を持つ都市プランナーの石東直子さんは、被災地でコレクティブハウジングの建築を進める事業推進応援団を、建築士らと結成。神戸などで勉強会を重ねている。
「北欧などではポピュラーな住居形態だ。日本でも高齢者が都市に住む上で、必要な住宅のひとつではないか」とシンポジウムなどでアピール、近くパンフレットも作製する。
ケア付き仮設にヘルパーを派遣する尼崎市の特別養護老人ホーム「園田宛」の中村大蔵宛長は「コレクティブハウジングを、一般住宅と福祉施設との『通過施設』と考えてはいけない」と指摘する。
「入居者は年をとる。身体も弱る。最初は元気でも、介護が必要になる時期も来る。そうなったからといって、次に移る福祉施設を心配しなくても、コレクティブハウジングに、二十四時間体制の生活援助員をつけ、ヘルパー派遣などと組み合わせればいい」
中村宛長自身、ケア付き仮設の住民と接し、目が開いたという。
「ここが『ついのすみか』になればいい。震災で高齢化社会に向けた新しい住居の形が見えてきた」
1996/3/30