「住宅の再建・購入に三十万円」。十一日に発表された義援金の配分項目は、十一カ月ぶりの返り咲きだった。
一年前の三月十三日、兵庫県南部地震災害義援金募集委員会(事務局・日赤県支部内)が発表した義援金の配分計画には、同様の内容があった。新聞にも掲載された。「詳細は後日」と、受け付け時期はまだ決まっていなかったが、約一カ月後の四月下旬、一転、削除された。
「見舞金を支給する全半壊世帯が、り災証明の一部損壊から半壊への切り替えなどで、当初見込みを大幅に上回った」。当時、募集委員会は見送り理由をこう説明した。
全半壊世帯への見舞金は十万円。八万件と見込んでいたが、申請はどんどん増える。最終的に四十五万件に膨らみ、必要な義援金は、八十億円が四百五十億円になった。
義援金には限りがあり、どこから回すかを検討した。住宅助成は「持ち家再建」「持ち家修繕」「民間賃貸住宅入居」と三種類、各三十万円の助成があった。「持ち家再建は復興基金で別途の支援がある」と削除のターゲットになった。
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その後の復活の過程は、広範囲の地域で起きた大規模大災害での義援金の難しさを示している。
現在、一千七百四十億円に上る全国の義援金は、日赤のほか、共同募金会、報道機関、被災自治体などに寄せられる。「公平な配分」を目的に、募集委員会を設け、集約窓口と配分項目を一本化した。
しかし、一本化が決まるまで、義援金を自治体独自の判断で使ったところもある。この調整も兼ねて、委員会は昨秋、まだ使途の決まっていない百五十億円を被災実態に応じて自治体に配分、活用は自治体の判断に任せることにした。
「家屋での被害は同じなのに、なぜ再建だけが除外なのか」。神戸市には削除が決まった昨春以降、被災者の苦情、問い合わせがやむことはない。
検討を任された兵庫県内十市十町のうち、神戸市など十市四町が、一度は消えた「持ち家再建」を横並びで採用。四月一日以降、申請を受け付ける。
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二日、神戸・六甲アイランドに「ひょうご輸入住宅総合センター」がオープンした。輸入住宅のモデルハウス二十戸が並ぶ。低コスト化に目標を絞った最も安い住宅で七百二十万円(六十五平方メートル)である。
積水ハウスによると、震災後に神戸・阪神間で受注した住宅の平均価格は、二千二百万円程度に落ちた。最近は上がってきているが、この額は震災前を約一千万円下回る。
三十万円の義援金は、一助にはなるが、まだ資金繰りを考えている被災者が再建に踏み切る額とは言えない。前回、雲仙・普賢岳災害で、基金から「百五十万円」が住宅再建に支給されていることを紹介したが、雲仙では義援金や、義援金をベースにした基金からも八百五十万円が出る。計一千万円である。
日本公認会計士協会近畿会は昨年、義援金の在り方を提言した。メンバーの佐伯剛さんは「住宅再建が一世帯でたいした額にならないなら、日々の暮らしに困っている人に対象を絞り、配分する方が意味がある」とも指摘する。配分論議が起きるのも、義援金以外に「個人補償」をするすべがない全体の仕組みのためだ。
1996/3/19