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(11)確保に走る自治体、業者 地価下落 市場に出てこぬ宅地
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 家屋倒壊が相次ぎ、今も更地が目立つ神戸市東灘区魚崎北町。今年九月の完成を目指す五階建てマンション「チュリス本山」で十六日、工事見学会が開かれた。すでに契約を済ませた入居予定者が顔をそろえた。

 「これが免震装置です」。説明に、ヘルメット姿の参加者がマンション土台の円筒形ゴムに手を伸ばす。写真に収める人もいる。販売を手がけた住建不動産の星加實大阪支店次長(50)は「これほど集まるとは正直思わなかった。完成を待つ入居者の熱気を感じた」と話す。

 約千八百平方メートルの土地は、一昨年に購入、震災前は駐車場にしていた。マンション建設に動き出そうとした矢先に地震が襲う。計画を変更し、地震の揺れを吸収する免震構造を採用した。

 三十三戸の平均価格は四千四百万円(七十平方メートル)。免震採用で割高にはなったが、昨秋の販売開始から二カ月で完売した。

 「なんとかこの土地で買いたい、という人も目立った。近くで被災し一戸建てから買い替える方もいます」と星加次長は言う。

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 長谷工総合研究所によると、神戸・阪神間のマンション供給は、震災直後こそ鈍ったものの、春先には回復の兆しが見え始めた。

 昨年一年間の供給戸数を見ると、阪神間は四千五百戸を超え、前年を上回った。神戸市は前年より一四%減ったが三千六百戸を数えた。「チュリス本山」同様、完売のところも多い。早く家を、という被災者の姿を浮き彫りにする。

 大手の不動産会社・京阪神興業の調べでは、神戸・阪神間の賃貸マンションの賃貸料は高いまま推移している。特に家族向け2、3LDKで、月額十二万から十七万円という。

 「分譲、賃貸とも被災地はマンション不足。今、供給されているのは、震災前に用地取得していたところが多い。業者は土地探しに躍起になっている」と、同社の小山田奨常務。

 「とにかく不動産市場に出てくる物件がない。市場に出る前に、所有者と自治体で取引が成立してしまっている」とも話す。

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 自治体と民間が競って用地確保に走る被災地の住宅事情。地価下落による土地所有者の模様眺めが、不足に拍車をかける。

 兵庫県、神戸市などは、復興公営住宅一万八千戸の用地確保に向け、公団、公社も含めた協議会を組織。信託銀行など金融機関にも協力を要請した。

 交渉に入った土地は神戸、阪神間で約百カ所。うち約四十カ所を買収した。県住宅建設課の竹本弘参事は「工場廃止やリストラなど、企業情報の入手が勝負だった。売却が社内で検討され始めた時点で交渉に出向いた」と振り返る。すでに九割分は確保したと言う。

 今年のマンション供給について、長谷工総研は「神戸市内では増えたとしても小幅、全域で五百戸増程度か」と予測する。

 二月十三日、長谷工コーポレーションは西宮に阪神営業所の看板を上げた。同社不動産情報チームのベテランは話した。

 「マンションの立ち上がりには、土地の取得交渉から二年、着工から一年はかかる。土地活用の相談拠点を地域に開くことが、不動産情報のネットワークづくりにつながる」

 だが今、土地探しに走る業界にも、来年、さらに再来年の需給動向までは読めない。

1996/3/23
 

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