仮設住宅のふれあいセンターには、新しい自治会役員がそろった。
「これからは一人ひとりが会長になったつもりでいてください。私も皆さんと一緒に考え、行動します」。集まった住民約四十人を前に、新会長のタクシー運転手鎌田龍夫さん(65)があいさつした。
神戸市北区鹿の子台の仮設北神戸第二住宅は、三田との市境に近い。この春、再建した自宅の完成などで約十世帯が仮設住宅を後にし、百三十四世帯が入居する。
自治会は昨年八月にできた。地蔵盆、運動会、ひな祭りなどイベントと炊き出しを月二回行うなど、活動は活発だった。
だが、七人いた自治会役員のうち、四人までが転居者に含まれる。前会長の主婦杉田正子さん(43)もその一人だ。転居者は比較的若い人が多い。
自治会活動をどう継続していくか・。選んだのは、役員を三倍の二十一人に、副会長も三人にし、「みんなで担う」道だった。
活動の中心は六十歳以上の世代になる。炊き出しは思った以上に重労働で、役員に高齢者が多くなれば無理はいえない。
「六十五歳以上に給食サービスを行う神戸市の制度を利用してはどうかと考えている」と杉田さん。役員の負担を少なくしながら、交流の機会は今までと同じ回数にと模索を続けている。
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仮設住宅の高齢者の多さは神戸市の実態調査でも裏づけられている。六十五歳以上は約一万八千人。全体に占める割合は三一・二%、三人に一人になる。
三月は、仮設からの転居の一つのピークだった。自力で再建を急ぐ被災者は、子どもの進学、新学年に照準を合わせてきた。被災者向け公的賃貸住宅の入居も重なった。
仮設に残ったのは高齢者が多く、高齢化率はいっそう高くなると予想される。年齢構成の逆ピラミッドはさらに進む。
今年初め、神戸市北区藤原台で、同地区の十一仮設自治会が参加した連合自治会が発足した。
初代連合会長になった仮設藤原台第一住宅自治会長・笹山幸一さん(63)は、その必要性を強調した。
「自治会活動が活発なうちに最低限の住環境は整えたい。高齢者が残り、一つひとつの自治会の力が弱くなっても、相互に支援していける。交流を深め、情報を交換することで、団地間の格差解消にもつながる」
神戸市北区の仮設住宅自治会すべてに、大連合組織をつくろうと打診、外部で開かれる震災関連の会合には積極的に参加している。
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仮設住宅には、ふれあい推進員が置かれ、福祉事務所、保健所の職員、民生委員、ボランティアらがそれぞれ活動し、入居者を支援している。
藤原台第一住宅の自治会は四月に、ふれあい推進員、ボランティアらの協力で「健康委員会」をつくる。安否確認、健康講座などを計画、残った人たちの健康管理をきちんとし、一人ひとりをつなぐ役割も果たせればと考えている。
笹山さんは「『最後に一人残されたらどうしよう』というあせりが、住民の気持ちを不安定にしている。二年目に入り、仮設に残るのは社会的弱者という兆しが顕著になっている」と指摘して続けた。
「入居者と話したり、会合で話を聞いたりしていると、結局、それぞれの自立には公的資金導入による個人救済しかないという結論にいきつく」
1996/4/2