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(19)「人権の器」はいつできる 共済提言に広がる共感
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 その内容は「双子の提言」といえるほど、兵庫県が提唱する住宅地震共済制度に似かよっていた。

 三月十五日、日本弁護士連合会は、久保蔵相と鈴木国土庁長官に「地震被害住宅等復興共済法」の立法化を提言した。

 共済法案は、家屋所有者全員の「皆保険」で、地震などによる住宅、家財の被災に給付金を出す。掛け金は月六百円。給付は全壊で千二百万円。再建が進まない被災地の現状を踏まえ、阪神大震災にさかのぼって適用するとした。

 二つの提言が異なるのは、県案が「建物の再建、補修する場合に支給」としたのに対し、日弁連案が「再建に関係なく支給」とした点など、わずかである。

 法案に携わった長崎県弁護士会の福崎博孝弁護士は「基本的な考え方は全く同じ。調整して一緒に進め得る内容だ」と話した。

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 義援金だけでは、あまりに少ない被災者救済の仕組み。新たな共済制度が必要だという認識は、全国レベルで広がりつつある。

 二月下旬、雲仙・普賢岳災害の被災地・島原市で、兵庫県案をテーマにした講演会が開かれた。主催した市民グループの松下英爾さん(41)は「被災地同士、痛みが分かる」と話し、講師の福崎弁護士は訴えた。

 「共済制度について、幅広い議論を巻き起こす必要がある。島原からも声を上げてほしい。神戸だけだと孤立してしまう」

 三月五日、新潟県議会は新たな共済制度創設を求める意見書を可決、その後、都道府県議会での意見書可決は京都、滋賀など十を超している。全国労働者福祉・共済協会(東京)は「国と自治体による自然災害対策基金をつくり住宅復興助成を」と提言。近く日弁連、兵庫県などと協調して運動を進める道を探る。

 提言はどれも、災害への備えと阪神大震災の救済がセットになっている。しかし、救済の遡及措置(そきゅうそち)は可能なのだろうか。

 立法化を検討する「日本を地震から守る国会議員の会」の検討小委員会(柿沢弘治委員長)は三月七日、「遡及措置は盛り込まない」との方針を確認した。

 小委員会のヒアリングで、大蔵省は一貫して「個人資産を補償する公的強制保険は妥当ではない」と主張。その考えに、兵庫県は反論しながらも「共済案が被災者救済のためととらえられては、新しい枠組みはできない」と、折れた。

 柿沢委員長は「遡及は棚上げにし、制度創設後、見舞金というような形で特例措置ができないか考えたい」と説明。兵庫県の和久克明・知事公室長は言う。

 「提案をまとめられたら、国民の安心システムというものができる。これだけ豊かな国で、災害で互いに助けられないのはおかしい。制度ができれば、必ず今の被災者をどうするのかという話になる」

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 神戸国際会議場で開かれた公的支援を求めるシンポジウム。国会議員らを前に仮設住民は口々に訴えた。

 「私の仮設では今年、一人暮らしの人が三人亡くなった。一人は日雇いに行く交通費もなく、薄い布団一枚だけあった。一度、泊まりにきてほしい」
 「震災一年で、住民に望むことを書いてもらったが、ほとんどが『元のところへ戻りたい』『お金がない』だった」

 近畿弁護士会連合会が出した被災者住宅対策の提言にこんな表現がある。「住宅は個人の尊厳を支える人権の器である」

 国はいつ腰を上げるのか。仮設などに取り残された被災者の人権救済は待ったなしである。

高梨柳太郎、桃田武司、西海恵都子、松岡健、加藤紀子、加国徹)=第9部 おわり=

1996/4/3
 

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