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(15)歪んだ土地 尾引く境界問題
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調整、復元 大きな負担
 歩道が丸くなって車道にせり出していた。駐車場のコンクリートは隣のビルにぶつかる形で歪(ゆが)み、盛り上がっている。ひび割れ、凹凸が目立つ。

 神戸・三宮から南へ十分ほど歩いた神戸市中央区磯辺通。貿易センタービル周辺は、震災で最大二十二・八センチも地表が動いた。今、測量士が神戸市の依頼で、一つひとつ土地確定の測量をやり直している。

 中央・灘の区境から、市役所前のフラワーロードまで、三百十ヘクタールの広い区域で進められてきた葺合地区・戦災復興土地区画整理事業は、ほぼ九割まで仮換地が終わっていた。各土地所有者の、区画整理後の新しい土地の線引きは示されていた。しかし、震災の歪みで測量点は移動した。土地の位置を示す座標軸が意味を失い、再測量を迫られた。

 都心の地価は下落傾向にあるとはいえ、磯辺通二は、二十一日発表の公示価格で一平方メートル、百十七万円。二十センチ余りの移動でも「土一升、金一升」である。

 市区画整理部は「土地を確定し、仮換地を変更する手続きには、あと一年半はかかる。所有者が分筆や売買を進めることはできるが、手間はかかる」と話す。

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 動いた土地の登記について法務省は昨年三月、判断を示している。

 土地全体が広範囲に動いた場合は、動いた形で境界を設定する、局部的な移動は境界を元に戻す、という内容だ。しかし、境界を元に戻すにはどうすればよいか。争いが生じた場合の解決法は・。昨年末までに土地家屋調査士会に寄せられた境界の相談は、九百四十四件にのぼる。

 同会が、境界復元の問題点として二月の報告会で明らかにしたケースは次のような内容だ。

 神戸市東部の住宅街は街区全体が動き、A家の石垣は約五十センチ市道にせり出した。隣接するB家の土地はA家側にせりだし、反対側の道路が食い込んできた。

 法務省見解の「局部移動」に当たると、復元を図ることになった。問題は両家の境界だった。A家は「市道との境界復元で敷地が狭くなる。B家が境界を越えた部分をすぐに戻してほしい」と主張、B家は「工事は四、五百万円かかる。すぐには無理」と事情を述べた。

 土地家屋調査士は「復元で被災者の経済的負担は大きい」とし、「局部移動のすべてを復元せずに、場合によっては境界移動を追認する形の変更登記も考慮されていいのでは」と話す。

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 自治体と民間が絡む道路と敷地の境界、そして民間同士の話し合いになる敷地間の境界。

 葺合地区の区画整理事業は、仮換地が完了していないため、市が民有地の境界まで踏み込んで調査に入る。だが、区画整理事業が完了した地域では、民間の調整にゆだねられる。

 神戸市は、灘、中央、長田区の約八百ヘクタールで、ブロックごとの街区点をあらためて定める作業を始めるが、このケースがそれに当たる。市土木局は「公共の財産である道路を復旧する立場から街区を復元する。街区内の敷地の問題は民間同士の問題」と話す。

 市は「大きな影響はないはず」とするが、調査士らは「大枠の街区を決める際には、民間の境界にも配慮した設定をしてほしい。新たな争いの種にならなければいいが」と懸念する。どれだけ問題が出てくるのか。震災から一年二カ月が過ぎた今もはっきりしない。

1996/3/28
 

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