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(13)高齢者に冷たい公的融資 あきらめ誘う自力再建
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 「息子さんの名義で借りたらどうですか」。兵庫県芦屋市の自営業村上嘉孝さん(67)は、銀行窓口での最初の言葉を今でも覚えている。マイホーム再建のため、市役所でもらった融資制度の説明書を手に出向いた時のことだ。

 「私らには貸す気がないんやな」と感じ、そのまま銀行を後にした。以降、金融機関とは縁がない。

 兵庫県芦屋市竹園町にあった自宅は築約二十年。ローンも終わり「二人が住むには、あと三十年もてば」と、一昨年十月、約百万円で外壁を塗り替えた。一生暮らせるはずだった。その家が震災で全壊した。

 三カ月の避難所生活の後、芦屋市内の仮設住宅に入った。住んでいなくても借地の地代は月三万円かかる。「息子の名義で」と銀行は言うが、子どももそれぞれ孫の教育費などで大変なことは分かっていた。

 「金はどこで借りるにせよ、返されへんかったら困る」。村上さんは現金で建てようと決めた。生命保険はすべて解約、老後の蓄えもはき出した。用意できた資金でOKした業者と契約した。

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 住宅再建には住宅金融公庫の特別融資のほか、自治体が金融機関とタイアップした「ひょうご県民住宅復興ローン」などがある。

 しかし、自治体ローンは、公庫融資を受け、足りない場合に利用できる。公庫融資は七十歳未満が対象だから、肩代わりしてくれる子どものいない七十歳以上は、公的融資を受けることができない。

 神戸中央総合住宅相談所によると、相談に来るのは何とかなるケースが多いという。公庫融資をクリアすれば、復興基金による利子補給制度などもあるからだ。

 担当者は話す。「子どももいない七十歳以上の人たちは、最初からあきらめてしまうのか、相談もほとんどない。『なぜ貸せないのか。死ねというのか』と言われたこともあるが、『今はこたえられる制度はありません』と説明するしかなかった」

 大手都市銀行は「家を建てるには、一千万円単位の融資になるが、十年返済でも、元金だけでも年百万円。そのためには四・五百万円の年収が必要」とし、「高齢の年金生活者はまず足りない。完済時の年齢が七十・七十五歳になると無理がある」と説明する。

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 民間資金を導入した被災地復興基金を提唱している神戸市兵庫区の松本地区まちづくり協議会の中島克元会長(40)は「高度経済成長を支え、一生懸命働いてローンを返し終えた高齢者に、また金を借りて家を建て、返済しろという方が酷ではないか」と問いかける。

 松本地区にも高齢者が多い。同協議会は再建ができない高齢者も住み続けることのできる街を目指して対策を練っている。

 十八日昼、東京・虎ノ門の自治省を阪神市議会議長会のメンバーが訪ねた。

 各議長らは「高齢者には、住宅ローンが借りられず、自力再建できないケースが多い。年寄りでも利用できる思い切った融資制度を」と倉田自治相に訴えたが、融資問題には、直接答えが返ってこなかった。

 村上さんは近く棟上げ式をする。「今は十円でも惜しい。働くだけ働く。立派な家建てるから、見にきてや」と笑顔を見せながら続けた。「震災後の賃貸住宅などには家賃補助が検討されている。少額でもいいから、家を建てる者にも、政府は金を出してほしい」

1996/3/26

 

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