「日本赤十字社は、震災から満一年を経た一月末日で義援金受付窓口をひとまず閉じることにしました」
こんな文面の新聞広告が、山本正淑・日赤社長名で全国紙などに掲載されたのは、一月二十七日だった。被災地で義援金にかかわる関係者は、複雑な思いで文字を追った。
義援金の窓口は、県や被災市町、報道機関など幅広い。日赤本社の扱いは最も多く、全体の三割を占める。義援金は昨年二月の六百七十億円をピークに下降を続け、最近は月三億円程度に下がっている。
二週間後、東京・港区の日赤本社に兵庫県南部地震災害義援金募集委員会の釜本貞男会長(県福祉部長)名で、一通の文書が届いた。
「被災地全体に、国民の皆さんから見放されたという大きな失望感をもたらす」。文書は「全国での再募集を強く要望します」と締めくくられた。
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日赤本社が窓口閉鎖を兵庫県支部に打診したのは、昨年末。当初は震災後三カ月の予定だったが、二度延長し、震災一年を区切りとした。「せめて三月末まで」という県支部の意向は聞き入れられなかった。
「震災一年で被災地への関心も高まる。全国へのアピールという点からも、本社窓口の意味は大きかったのだが」と県支部職員は漏らした。
日赤本社によると、奥尻や雲仙では、日赤の義援金窓口は現地支部に一本化されていた。阪神大震災の被害は広域で、支部だけでは対応できないと判断、異例の本社窓口を設けた。
本社の根本嘉昭・救護福祉部次長は、再開の要望に注文を投げ返した。
「この先どんな目的で使おうとしているのか、見えてこない。具体的なニーズを訴えてほしい。それで全国窓口が必要なら、再開はやぶさかではない」
千七百四十億円の義援金の配分は、住宅修繕・賃貸入居助成九百十一億▽全半壊見舞金四百五十億▽要援護家庭激励金百六十三億▽死亡・行方不明者見舞金六億・などを見込む。
このうち最大の住宅関係は約三割の二百七十二億しか配分が終わっていない。仮設などに入居後、先の見通しがつかず、未申請が多いためとみられる。
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昨年末、日本公認会計士協会近畿会は、義援金について「目標額を掲げた前向きな広報も検討の余地がある」と提言。受け取りから配分まで、一貫したチェック体制、透明性確保の必要性なども指摘した。
地元でも「もっとアピールを」との声が出るが、善意のお願いにはちゅうちょもある。
日赤本社はこの十一日、学識経験者らの義援金問題懇談会を設置した。義援金の使い道、監査の在り方などを課題にし、根本次長は「今回の経験を踏まえ、国民的なコンセンサスづくりにつなげたい」と言う。
阪神大震災は義援金のさまざまな問題を浮き彫りにした。
義援金は奥尻や雲仙で被災者の生活再建に大きな役割を果たした。阪神大震災の額は、奥尻などの七倍にも上るが、被災者が多く、見舞金ほどの役割しか果たしていない。被災者対策の中で義援金をどう位置づけるか。こうした検討も国レベルで求められる。
今月下旬、兵庫県募集委員会の会合が予定される。テーマの一つは、目的を明確にした義援金募集の呼びかけができるか、である。
1996/3/20