阪神・淡路大震災の復旧、復興で問われた「住」のあり方。地震に備える東京都や静岡県は震災直後から、神戸や阪神間の被災地に入り、住宅復興の過程を詳細に検証した。両都県とも、被災自治体が進める各方面の対応策の中身や効果を調査。その後、震災の教訓をもとに独自につくった復興マニュアルやプランで、仮設住宅をはじめとした住まい再建の道筋を復興施策の中心に位置づけた。そこでは「仮設住宅の設置戸数をいかに少なく抑えるか」という方針が基本に据えられた。背景には用地確保の難しさと同時に、近隣コミュニティーの維持や早期の自立生活再建を目指すため、多様な住宅再建のあり方を模索する考えがうかがえる。防災先進自治体は震災の仮設住宅から何を学び、どう備えるか。
■仮設住宅戸数いかに抑えるか
背景に深刻な用地不足
今年一月、東京都庁に、「都市復興計画に関する研究会」と名付けられた担当者会議の作業部会が発足した。テーマの一つが「仮設市街地」だ。「被災者を被災地内に抱えながら、どう復興できるか。その検証が主目的」と担当者は言う。
大震災から二年余りたった一九九七年五月、都は「都市復興マニュアル」を策定した。A4判、百六十四ページ。最大の特色とされるのが「仮設市街地」の提案である。
■バックに震災の反省
被災地やその周辺に仮設住宅や仮設店舗を集め、被災前のコミュニティーの継承に配慮する、この仮設市街地構想では、「膨大な被災者に見合う仮設住宅の用地が確保できるかがカギ」とされる。岡田順一郎・政策報道室特命担当部長自身、用地対策の不十分さを認め、「マニュアルは仮想指針。希望的観測も多い。シミュレーションを重ね、現実味あるものにしたい。その検証が今年の作業部会の目的」として、続ける。
「震災後の最大の課題は被災者の自立復興。仮設市街地の発想の根底には、震災から五年目に入り、今なお生活再建の遅れやコミュニティーの喪失が指摘される被災地の現実がある。東京では、別のやり方を考えてみようと…」
■利用可能なもの活用
阪神・淡路の教訓をどう生かすか-。東京都は震災直後から神戸や阪神の被災地に各担当職員を派遣し、被災自治体が進める復旧・復興対策を多角的に検証した。検証作業を受け、東京で発生する大地震を想定し、都市復興の行動手順を示した指針が「都市復興マニュアル」だ。
マニュアルが示す仮設市街地では、応急修理によって利用可能な建物は撤去せず、引き続き暫定利用する。同時に公的住宅や民間賃貸住宅の空き家も積極活用、仮設住宅の供給戸数を抑える・とする。「足らざる分を仮設住宅で補う」発想だ。
背景には、深刻な用地問題がある。東京で大地震が発生すれば、阪神・淡路を大きく上回る倒壊被害が予想される。都が九七年に公表した被害想定によると、最悪のケースで焼失、全壊合わせ四十二万棟を超える。地域防災計画に定めた仮設住宅戸数は全焼、全壊世帯の三割以内。必要戸数は阪神・淡路をはるかに上回る。
■解決のめど見えぬ用地問題
「約五百カ所、約千万平方メートル」
仮設住宅用地として利用のめどが立った土地について、都住宅局は九八年末現在、ここまではじき出した。阪神・淡路で建設された仮設住宅四万八千三百戸分の用地は約四百万平方メートル。都の面積は大きく上回る。
しかし、実態については「用地の大半は公園。構造物や池、樹木もあり、有効面積はごく限られる」との専門家の指摘がある。マニュアルは企業保有の事業用地など民有地借り上げも提案するが、具体的協議は進んでいない。
今年のマニュアル検証では、特定地域をモデルに、仮設住宅の戸数や供給方法、住宅の空き家や応急修理の見通し、生活支援策などを具体的にシミュレーションする。
「結果、仮設住宅用地が不足すれば、仮設市街地の前提が崩れてしまう。用地対策を根本から見直す必要が出てくる。めどが立たなければ、阪神・淡路と同じく被災地外への誘導となってしまいかねない」と都住宅局幹部。
都市復興マニュアル策定からすでに二年。いまだ課題山積の東京の現実である。
■仮設住宅の独居死 233人 60代男性が25%
死因トップは心血管疾患 男性は肝疾患も
年々増える自殺者
今年五月五日、神戸市西区の仮設住宅で七十七歳の女性が亡くなっているのがみつかった。兵庫県警の統計によると、震災後、兵庫県内の仮設住宅で、だれにもみとられずに亡くなった「独居死」は、震災の年の一九九五年三月に尼崎で見つかった六十三歳の男性以来、この女性で、二百三十三人。年別では九五年が四十六人。最も多かった九六年が七十二人で、九七年はほぼ横ばいの七十人。昨年は三十九人で、入居者減少などに伴い前年に比べ四割以上減ったが、今年もこれまで六人で、一カ月に一人の割合でみつかっている。
女性七十二人に対し、男性は二倍を超える百六十一人。年代別では六十代男性が最も多く、全体の四分の一を占め、次いで五十代男性、七十代男性。
大半が病死だが、自殺も二十人含まれる。死亡者が減っているにもかかわらず、自殺は年を追って増え、自立再建への苦悩が浮き彫りになっている。
仮設住宅の解消は進むが、独居死の影は消え去っていない。詳しいデータはないが、転居先の復興住宅でも独り暮らしの病死や自殺は少なくない。鉄扉に閉ざされ、高齢の住民らにとって、かえって近所との付き合いが遠のいているのではとの指摘もある。県警もお年寄り宅を訪問するほか、自治会との連携や相談所開設など、仮設住宅と同様のサポートを展開している。
神戸大医学部の上野易弘助教授は、兵庫県監察医の検視記録や新聞報道などをもとに、九五年三月から九九年四月までの実態をまとめた。県警統計とデータの取り方は少し違うが、総数二百五十二人のうち百七十九人(七一%)が男性。五十、六十代で約半数を占め、一方の女性の約半数は七十、八十代で、顕著な違いが見える。
死因を分析したのは病死の男性百四十九人と女性六十二人。女性の場合、心血管疾患が大半だが、男性は心血管疾患三九%、肝疾患三一%で、肝疾患が目立つ。さらに内訳を見ると、肝疾患のうちアルコール性が約六割。上野助教授によると、男性の場合は無職の人が多く、「近所の人たちとのコミュニケーションがうまく行かず、仕事もなく、酒にのめり込む姿がうかがえる」としている。
メモ
仮設市街地
仮設住宅や仮設店舗の建設・供給を、可能な限り被災前の地域かその周辺に限定。復興まちづくりを円滑に進めるために、被災者がなるべく被災地内や周辺に居住する構想。