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(8)グループハウスが芽生えた 減らせるか入居者負担
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 地域型仮設は、高齢社会の住まいのありようを見せつけた。高齢者らが支え合って暮らすグループハウス(共同住宅)。その先進例が、埼玉県浦和市にあると聞き、訪ねてみた。

 JR京浜東北線与野駅から歩いて十数分。住宅街の真ん中にグループハウス「さくら」はあった。五人のおばあさんと、建物の持ち主の小川志津子さん(58)が迎えてくれた。

 三階建て。一、二階が食堂、居間、居室。三階が小川さん方。九年前に自宅を建て替え、日本で最初の民間グループハウスとなった。

 小川さんは、かつて浦和市議を五期二十年務めた。特別養護老人ホームなど全国の施設六十カ所を視察したが、入所したいと思う所はなかった。福祉施設の限界を感じ、「好きな物が食べられ、自由がある施設をつくりたい」と思った。

 「さくら」には痴ほうの症状が見える八十六歳の女性もいた。話しかけると「海の前に住んでいてね。そりゃ、きれいだったよ」。昔話を何度も繰り返した。

 それでも「大丈夫。みんな支え合って暮らしているから」。小川さんは、自信に満ちていた。

 被災地で高齢者が一人で亡くなったと聞くと、気がめいるという。「さくら」には全国から視察が相次ぎ、化粧箱に詰まった名刺の束には兵庫県の人の名もあった。

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 被災地を見回してみる。高齢者や障害者向けの共同住宅への関心は、どれだけ広まったことだろう。
 神戸市西区では仮設住宅を利用した暫定施設ができ、尼崎などでも五年間の期限付きで建った。
 地域型仮設として紹介した神戸市東灘区、手水公園仮設の近くでは五月、高齢者ら四人が入居する恒久的なグループハウスが着工した。
 兵庫県芦屋市でも、地域型仮設を運営していた特別養護老人ホーム「あしや喜楽苑」が中心になって計画。来年六月の完成を目指している。神戸市垂水区の住民グループも、着工まであと一歩にこぎつけた。

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 一連の動きには、来春から介護保険制度が導入されるという背景もある。
 ただ、いずれも資金繰りに苦慮している。小川さんにしても自宅を使うなど持ち出しは大きかった。被災地では、建設費の公的な助成は阪神・淡路大震災復興基金くらい。大半は自己調達しなければならない。当然、入居者の負担は大きく、入居に際し、一千万円以上を支払うケースもある。

 喜楽苑の施設長、市川禮子さんは「資金のない弱者が対象とならないのがつらい。公的な支援制度がないと」と嘆いた。震災で日本の高齢社会の現実をつぶさに見ただけに、資金の壁がもどかしい。
 垂水のグループが直面するのも、また同じ壁だった。

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 彼女たちは「自分たちが住みたい施設にしたい」と願う。その思いは、震災でより強くなったという。
 総務庁の推計で、六十五歳以上の人口は一五%を超えた。二〇二五年には、「三・七人に一人」の時代を迎える。
 「グループハウスは、コンビニの数ほどいる」。そんな声も聞く。

1999/6/26
 

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