■まちづくり計画研究所 渡辺実・代表に聞く
高齢社会を迎えた都市部での初の大地震災害は、「住」のあり方や住まい復興の難しさを突き付けた災害でもあった。1面連載「震災からのメッセージ 問われる『住』」で報告した5年目の被災地の実情は、日本の災害史上にどのような教訓を投げかけているのだろうか。全国各地で自治体の防災計画作りに携わる渡辺実・まちづくり計画研究所代表は、「仮設住宅から復興住宅という行政提供の『単線型』施策だけでなく、被災者が選択できる多様な住まい復興の道を」とする。大震災の復興で露呈した問題点は何か。そして教訓は生かされているか。渡辺代表に聞いた。
-大震災で浮き彫りになった仮設住宅や住宅復興の問題点をどうみるか
「北海道南西沖地震の奥尻や噴火災害の雲仙では、住宅問題はここまで深刻なものとして表面化しなかった。大災害の後の住宅再建、住宅復興の重要性は、私も、今回の震災で初めて痛感した。街は一夜にして作り上げられるものじゃない。人々がいかに暮らすか、住まうかが大事だ。仮設住宅や災害復興住宅の戸数だけをそろえても、住まいの復興は万全でないことを、阪神・淡路は示した」
「震災復興の道筋全体をみると、アメリカのFEMA(連邦危機管理庁)などと比べ、災害や防災をとらえる文化が非常に違う、と感じる。災害は個人の責任ではない。だから、最低限の補償は社会全体でやり遂げる。支援する。一方、個人の責任によって、さまざまな支援のメニューから選択ができる。これがアメリカのやり方だ」
「これに比べ、日本では公共施設の復旧が最優先とされた観がある。被災者にとっては、避難所・公費による仮設住宅・復興公営住宅とつながる、単線型の施策しかなかった。私有地での仮設住宅建設も認められなかった。既存の民間賃貸住宅に入った場合の家賃補助も、発生後しばらくしてやっと認められた」
-多様な支援が日本で展開できなかった背景をどうみる
「被災者のすべての生活基盤を(現金給付でなく現物で)整えるのが行政だ、そんな責任感が強いのだろう。しかし、大都市では、その責任感だけでは限界がある。日本の施策に意味がないわけではないが、自立が可能な人などには現金給付の選択肢もあっていい。アメリカでは単に現金を配るだけでなく、賃貸住宅に入居する際の保証人も行政で引き受ける。こんな柔軟性が欲しい」
「個人補償の論議があるが、しかし仮設住宅や復興住宅の建設費などを考えれば、実質的には被災者一人に一千万円以上をかけたケースも多く、事実上、個人財産を補償している。問題は現金を直接渡さず、現物支給しか認めないという点。被災者生活再建支援法の年齢や所得による給付基準が一般市民に難解な所なども、自ら枠に縛られた行政システムを表している。ここの考え方を変えねば」
-具体的には
「自治体は年度の政府予算を意識して、住宅再建や都市計画の手続きを進めた。単年度予算に合わせるなかで手続きが性急になり、住民との対話や意見調整がおろそかになる。結果、住民には不満が増す。被災地への予算は複数年分を一括して確保し、具体的な使途は官民であらためて詰める方式を採るべきだ。本来、自治体と住民は災害を一緒に乗り越えるパートナーなのだから」
-阪神・淡路の教訓は生かされているだろうか
「防災に関する意識は全国で高まった。しかし、住宅再建への関心はどうか。災害を意識する東京や静岡を除けば、あまり高くないのではないか。震災直後の惨状には世間の目も集まり、防災態勢作りが一斉に始まった。住宅再建やコミュニティーのあり方では、時がたつにつれ、深刻な問題が表面化してきたが、世間の関心は時とともに薄れている。被災地からの教訓の発信と、それを見据える姿勢が求められている」
略歴 わたなべ みのる 都市防災研究所企画財務部長を経て1989年、現在の研究所を設立。専門は都市計画。災害が起これば現地に入る現場主義、臨床主義を重視する。神戸市や静岡県、東京都などの防災計画策定に携わる。48歳。