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(10-6)災害救助法 緊急・柔軟対応 なお課題
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運用基準は改正されたが…
 住宅復興のあり方が、コミュニティーや暮らしの再建にいかに影響を与えるかを浮き彫りにした阪神・淡路大震災。とりわけ災害直後の住宅対応である仮設住宅施策は、その後の復旧、復興における住まいのあり方をも方向付けた。その仮設住宅の規模や設置費用を規定したのは、災害救助法の運用基準だった。大震災をきっかけに厚生省は1997年6月、同基準を見直した。大震災クラスの災害にも対応できるよう、避難所の生活レベルを向上させ、高齢者や障害者向けの「福祉避難所」や「福祉仮設住宅」を設置できるようにした。しかし、この見直しだけで災害後の緊急対応はスムーズに運ぶのか。見直しに向けた検討段階で厚生省に意見を述べた神戸市は、積み残された課題を指摘した上で、「どこかで大災害が起これば再び問題は表面化する。十分な検討をしてほしい」とする。市職員の言葉には、今の見直しでは不十分との思いがにじむ。自力の仮設住宅への補助の検討なども求めたが、見直しでは見送られたままだ。

神戸市の危ぐ 国と”直接交渉権”見送り
 金券支給方式や自力仮設補助も 届かぬ声 もどかしさ残す

 避難者がピーク時で二十四万人に上った最大の被災自治体、神戸市は同省からのヒアリングで現行法の問題点を指摘した。福祉避難所や福祉仮設住宅は同市提案が盛り込まれた格好だが、手付かずの項目も少なくない。

 震災後、避難所運営や被災者への弁当の配食、仮設住宅の設置などは同法に基づき進められ、自治体には国との協議が求められた。神戸市職員がもどかしい思いをしたのは、国と直接やり取りできず、兵庫県を通じての交渉になったこと。ヒアリングでは、政令指定都市が国とじかにやり取りできるよう提案。同時に都道府県の役割は大災害時の広域調整とするよう求めたが、政令指定都市の直接交渉は実現しなかった。

 ある職員は「被災者の声を直接に聞いているのは県ではなく市。国に現場の実態が伝わっているのかという思いがあった。意思決定にも時間がかかったのではないか」と振り返る。

 災害救助は現物支給が基本だが、例外があってもいいのではないか、そんな指摘もした。例えば弁当。高齢者の中には「冷たい」「油っこい」と口にしない人もいた。そうした実態から金券方式を例外的に導入することを提案したが、やはりだめだった。

 さらにヒアリングでは、自分の土地に自力で仮設住宅を建設する場合の補助制度の検討なども求めた。市街地で用地を確保することが困難だった経験からで、同時に、住み慣れた土地で暮らしたいという被災者要望にこたえるためにも必要と判断したが、見直しでは受け入れられなかった。

兵庫県の評価は 特別基準さえあれば対応可
 一方、兵庫県は、災害救助法の新基準について「特別基準さえあれば対応できる」(健康福祉部)との基本姿勢だ。震災時には、仮設住宅の数にはじまり、予算、広さなどかなりの部分を特別基準で切り抜けた。担当者は「災害は起こってみないと分からない。一般基準は歯止めとしてあるだけで、無理だったらオーダーメードできる」とする。

 昨年九月、神戸市兵庫区・新湊川で台風による浸水災害が発生。通達で食品供与は七日間とされるが、状況に合わせ十日に延長した。規模や期間に合わせ柔軟対応できるから、固める必要はないという考えだ。

 県内部には「時代に合わせたこまめな見直し」を提案する声もあるが、別の担当者は「救助法はいわば財政支援法。現金補助できる範囲だけを書き込んでおり、オールマイティーではない。根本には災害対策基本法がある」とも。

 一方、救助法で定められた「応急仮設住宅の供与」に関しては、貝原俊民知事自身、「個人の能力を活用した仮設住宅を建てた方が良かったのではとの意見もあり、今後の課題だ」とするが、応急修理や自力復興への補助の前には、災害救助法は自力でやっていける人を対象にしない-という建前の壁がある。

メモ

災害救助法主な見直し

 災害時の救助は、災害救助法に基づく厚生省の事務次官通達により各都道府県が行う。通達は阪神・淡路大震災レベルの大規模、長期の災害を想定しておらず、大震災では「特別基準」という形での対応が目立った。
 このため、1947年の成立以来一度も改正されていない同法は「時代遅れ」と非難され、一時は改正論議まで盛り上がった。が、結局は法改正までは踏み込まず、学識経験者などでつくる「災害救助研究会」の論議を基に運用基準を見直すにとどまった。
 新通達は、高齢者や障害者向けの「福祉避難所」を設置することを明記。介助員や相談窓口の設置のほか、器具の準備など「特別な配慮」への実費加算を認めた。避難所の設置費用や食費も引き上げられ、避難所の生活水準も少しは向上する。仮設住宅の広さや設置費用、住宅の応急修理費もそれぞれ引き上げられた。
 しかし、同研究会の報告書で指摘された仮設住宅の撤去費負担のルールや、政令指定都市の権限の扱いには触れなかった。

(社会部・磯辺康子、青山真由美、中部剛)=第20部おわり=

1999/6/28

 

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