■検討の舞台できたけれど
大震災を契機に、議員立法で成立した「被災者生活再建支援法」。災害被災者に最高百万円を給付する新法の中身は「省庁と政党が応酬した結果の妥協」(関係議員)とされ、積み残された住宅再建の支援については、付則で「あり方を検討する」と盛り込まれた。同法成立から一年余り。国会や国土庁には検討の舞台となる機関はできたものの、実質的な前向きの論議は見えづらい。災害時の住宅再建支援を巡る動きは、いまだ積み残されたままに映る。
■「あの時とは違う」
今月二日。民主党の災害対策部会で、作家の小田実氏が訴えた。「復旧や再建に必要な点をここにすべて盛り込んだ」。被災者に最高五百万円を支給し、住宅や事業の再建へ新たな貸付制度を盛り込んだ「災害基盤回復援護法案」を挙げ、小田氏は政治の支援を呼び掛けた。
先の支援法では、小田氏らのグループが市民立法案を掲げ、実現への一つのきっかけを作った。今度の援護法案は、その小田氏らが支援法の足らずを指摘し、改めて作った案だ。
対する党側の部会の副部会長は本岡昭次参院議員(兵庫選挙区)。支援法成立では小田氏と並び街頭演説もした間柄だが、この日は「党内で論議します」と答えただけだった。「(支援法を目指した)あの時は被災者への現金給付すらなく、急を要した。だが今は法の枠組みもでき、超党派の議連もある」
今後は党内手続きを踏み、超党派の「日本を災害から守る国会議員の会」(災害議連、原田昇左右会長)に持ち込む案を練る意向で、切羽詰まった動きは見えない。
住宅再建支援の検討については災害議連の相沢英之会長代理(自民)も「役所の抵抗がある。やはり議員立法でやるべきテーマ」と話す。が、既存の地震保険や支援法を見直すのか、あるいは兵庫県などが提唱する災害共済制度などの新制度を考えるか。肝心の議論はこれからだ。
今月九日、議連幹事長の谷洋一氏(兵庫五区、自民)らは省庁幹部や学識経験者と勉強会を始めた。「住宅再建への熱意が国会で冷めてるとは思わない」とするが、動きは総裁選や解散・総選挙などの政局にかき消され気味だ。「財源は支援法をはるかに上回り、財政当局との交渉はますます厳しい」(相沢会長代理)との見方が強い。
■◆さめた省庁
一方、支援法の付則を受け、国土庁に設けられた検討委員会。今年一月、十人の学識経験者らで発足し、住宅再建を検討する枠組みは生まれた。
これまで大災害の関係自治体からヒアリングを重ね、今月四日の会合では地震保険について、耐震強化策などと保険料設定をリンクさせる案などもテーマとなった。しかし、参加の省庁担当者も現状説明程度で踏み込んだ発言はなく、主管の国土庁防災局の林桂一局長も「省庁間の調整は、委員会の答申の後です」。
座長の廣井脩・東京大学教授は「国土庁の委員会答申という形で、どれだけ各省庁に強制力を持つか、疑問だ。建設や大蔵なども巻き込まねば」と懸念する。
■◆たたき台
住宅共済制度などを目指す兵庫県や、そのほか全労済協会、日本生協連は「自然災害被災者支援促進協議会」を継続し、近く民間シンクタンク「社会安全研究所」と共同で独自の住宅再建策作りに着手する。
同協議会メンバーは、二千五百万人署名を集め支援法実現の原動力となった「国民会議」とも重なる。ただ、支援法で動いた全国知事会は新たな財政負担を懸念、今回の再建策検討に距離を置く。
同協議会は、こうした沈滞ムードのなかで、論議の活性化を目指し、「住宅再建支援の議論のたたき台を提供したい」(全労済協会幹部)としている。
1999/6/28