■食料備蓄、家の耐震「自分の安全は自分で」
マグニチュード(M)8クラスの地震の到来が予測される東海地方。阪神・淡路大震災は、これまで着々と地震対策を進めてきた静岡県にも衝撃を与えた。震災が発生した一九九五年の五月、従来の地震対策の総点検に着手し、約十カ月かけ、教訓をもとに新たな行動計画をまとめた。
中でも住まいの提供と復興は最も重要な施策に位置づけられ、さらに県都市住宅部は今春、災害時の住宅復興のあり方を「ふじの国住宅復興プラン」としてまとめた。そこでは「仮設住宅の必要戸数をいかに減らすか」を念頭に、多様で柔軟な住宅復興を支援する方向を打ち出した。
■自らで守る
震災後、静岡が着手した地震対策見直しは「300日アクションプログラム」と名付けられ、初動態勢の確立からライフライン、災害弱者対策、仮設住宅など主要三十項目について、震災の教訓や課題を抽出した。そして九六年春に行動計画をまとめ、さらに昨年、百三本のマニュアルをつくった。
「見直しの一つの力点は、県民自らが責務を負う考え方」と防災局の小澤邦雄・観測調査室長は言う。
例えば食料備蓄。「三日間の食料を自分で用意して、と言っているが、以前は言えなかった」。静岡の県土は東西百五十キロと長く、物流が寸断されれば行政の備蓄では間に合わない。
九六年には地震対策推進条例を制定。県や市町の役割とともに「県民の責務」に触れ、備蓄のほか耐震診断や改修など家庭での対策を明記。県内に約五千と言われる自主防災組織もさらに強化し、訓練実施やリーダー育成に力を入れる。
■自力再建支援
静岡県の住まい復興では、仮設住宅標準マニュアルで用地確保を課題に挙げ、全壊想定戸数の三割をめどに各市町村で調査。阪神・淡路に匹敵する五万戸分の用地を確保した。一方で「仮設住宅の必要数を減らす取り組み」に言及。これを受け都市住宅部公営住宅室は今春「ふじの国住宅復興プラン」を作成した。
プランでは、阪神・淡路で、自力でコンテナハウスを建てる動きなどがみられた点や、仮設住宅の長期化、住宅復興の地域格差などに注目。同時に、戸建て持ち家比率が高い静岡の特性も考え、「被災前に住んでいた場所での住まいの再建」を一つの目標に掲げた。
再建支援制度の確立と融資制度の拡充や、補修支援を進める方針で、さらには「仮設住宅の譲渡制度」も検討。仮設住宅の設備や防火性を向上させ、一定期間使用後、土地の所有者などに売却して引き続き居住に使う可能性を模索する。
いずれも現行法との調整が必要なものばかりだが、担当の小澤徹主幹は「今のままの制度では、住宅復興で本当に困り果てた人を救えない」と指摘する。
メモ
三つの地震
東海地方では現在、三つの地震が想定される。うち一九七六年に説が発表され、最も脅威とみられるのが東海地震で、「明日起こっても不思議ではない」と言われる。
東海地震は「プレート境界型地震」で、駿河湾最深部で起こる。海底を作るフィリピン海プレートが、陸地を作るユーラシアプレートの下に年月をかけ引きずり込まれ、そのひずみが限界に達した時、ユーラシアプレートが跳ね上がり、地震となる。想定エネルギーはM8。死傷者と建物被害はいずれも阪神・淡路大震災の二倍近く、約九万四千人、四十五万棟が予測される。
東海では他に、神奈川県西部を震源とするM7クラスの地震、静岡県東部の富士川河口断層帯を震源とするM8クラスの地震の可能性が指摘される。
(社会部・西海恵都子、梶岡修一、志賀俊彦、小西博美、佐々木道哉、東京支社・坂口清二郎、阪神総局・勝沼直子)
1999/6/17