「生活再建は、国、地方自治体、市民の三本柱が必要なのに、この国は義援金だけでやろうとした。基本土台は国が面倒を見る、ってことができてないんだ」
二十六日夕、神戸・三宮のフェニックスプラザで、作家の小田実さんが、かみ砕くように話した。
小田さんが代表を務め、被災者への公的支援を提案した「市民=議員立法実現推進本部」。昨年五月成立した生活再建支援法は不十分として、新たに「生活基盤回復援護法案」を打ち出した。
その成立に向け、市民と国会、地方議員が共に行動を起こそうと集まった。法案には、年齢や所得に関係なく、全被災者を対象に最高五百万円を支給することなどを盛り込んでいる。
そこには、住まいを人間の生存を支える基盤としてとらえる理念がうたわれている。その基盤が災害で壊れた時の責任は当然、国にあるという考え方だ。
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ともに法案を作った市民グループ「公的援助法」実現ネットワークの事務局長、中島絢子さんも同じ見解を持つ。「これまで私たちは、住まいを財産価値として見過ぎていたのではないか。そのおかしさを災害で知ってしまった」
震災の跡が消えない神戸市長田区御蔵通の事務所には、今も深刻な相談が寄せられる。「自宅再建に退職金を全額使った」「ローンを組んだ後、リストラされた」-。
「支援の金額が問題ではない。災害時の住宅再建に政府が責任を持つ原則を作りたい」。中島さんは、被災者の体験と行動が国を動かす力になると確信する。
立正大学(埼玉県)の金子勝教授ら法学者二十四人も、法的な裏付けへと動く。「住居の権利は、憲法でいう基本的人権と健康で文化的な最低限度の生活を営む権利に含まれる」と。
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このシリーズで、震災で見えた住宅対策の不備、あるべき姿を取り上げた。次々に浮かんだ疑問を解くため、兵庫県、神戸市、そして都市災害に備える東京都や静岡県などに足を運んだ。共通した答えは「地方行政には限界がある」の言葉だった。実態に即した支援策を打とうとしても、できない事情がある。「地方分権が早く成立していたら」という声も聞いた。
生活再建支援法に基づき、国土庁にできた「被災住宅再建等検討委員会」。応急時から恒久住宅まで一連の住宅再建策について考える有識者十人の委員会だ。毎回、大蔵、厚生、建設省からも出席する。だが、実質はまだ被災地からのヒアリングと地震保険の現状報告を行った程度。今後は、兵庫県が提唱する住宅地震災害共済保険制度なども検討するというが、果たして現金支給など踏み込んだ論議は行われるのだろうか。
国土庁幹部は「避けるつもりはない。ただ、他の納税者のことも考えてほしい」と言葉を濁した。
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四年半近く続いた仮設住宅使用の最終期限切れまで、あと三日。住む家が見つからず、悲壮な表情を浮かべていた人たちはその後、住まいを再建できたのだろうか。
私たちは、住宅を失った人たちの苦しみとともに、住まいは、財産価値としてだけでなく、その周りに健康、福祉、環境などあらゆるものがかかわる人間生活の根幹であることを思い知らされた。
国土庁の委員会に、被災地から出席する神戸大学工学部の室崎益輝教授(都市防災)が言った。
「多様な被災者に対応するには当然、多様な施策が必要になる。個人は災害保険に、自治体は基金を積み立て、国は公金を導入する。それぞれの立場で責任を持って財政的基盤を確立するべきだ」
未曾有(みぞう)の都市災害を体験し、この国の実像を見た上での提言だと思う。
1999/6/28