「観光局ができたんやて」「新聞も出してるらしい」。ある日、洲本市役所でそんな情報を耳にした。
洲本市・由良地区の話だという。何やら熱いものを感じ、訪れてみることにした。
5月初旬の晴れた日、洲本の市街地から車を走らせた。紀淡海峡を左に見つつ県道を南へ。20分ほどで、洲本市役所由良支所(洲本市由良2)に着いた。
ふと、にぎやかな声が聞こえてきた。由良湊神社。赤、水色、緑…。見上げると、カラフルなビニール傘の花。その下で、子どもたちがシャボン玉を手に駆け回っていた。
「アンブレラスカイ」と銘打ったイベントだという。企画したのが市民団体「由良カンコウキョク」だった。
由良カンコウキョクを中学の同級生と一緒に立ち上げた奈良市在住のグラフィックデザイナー落合典子さん(54)に会うことができた。
落合さんは同神社の宮司一家に生まれ、祖父が宮司を務めていた小中学・高校時代を由良で過ごした。離れた後も同神社の仕事を手伝うためたびたび帰郷。活動のきっかけは知人の一言だった。
「このままだと神社、なくなるんちゃうか」
夏や冬に祭りを続けてきたが、集まる人は年々減っていた。祭りがない時期に神社を訪れる人はいない。それは、まちに元気がないからではないか。不安が背中を押した。
インターネットで、愛知県の離島・佐久島の町おこしを知った。現地に足を運んだ。島の至る所に壁画やオブジェがあり、それを見に多くの人が島に押し寄せていた。
「すごい。由良もそんな町にしたい」
仕掛け人の名古屋芸術大の松岡徹教授に連絡した。「どんなふうに佐久島を盛り上げたのか教えてほしい」
2022年6月、落合さんは松岡教授に会いに行き、由良の現状とともに、歴史や伝承文化について伝えた。「行ってみたい」。同9月、松岡教授が由良へやって来た。
路地、神社、港。由良のあちこちを一緒に歩いた。「面白そうな町だ。何か一緒にやりましょう」と松岡教授。23年4月、由良カンコウキョクが始動した。
柱の一つは、由良の魅力を発信するフリーペーパー「ゆらより」の発行だ。
12ページのタブロイド紙。松岡教授のゼミ生らが作成に協力した。
第1号は、見開き2ページを使った手書きのイラストマップが目を引く。「淡路橋立」と言われる成ケ島、生石の展望台、お好み焼き屋、すし店、神社の祭り…。名所や店、行事をぜいたくに紹介する。
今春、由良の各所を巡るツアーも企画し、インスタグラムで発信。北海道や大阪から予想を超える12人が集まった。落合さんらが案内役。参加者はアワビなどの海の幸に舌鼓を打ち、景色を満喫した。
活動はボランティア。ツアー参加費には、食事や船の料金などの実費しか含まない。
狭い路地、昭和の薫りが残る店の看板、そして人情。「『古き良き』が由良の特色」と落合さん。活動の原動力は何かと聞くと「仲間のために動きたい、という思いかな」と照れくさそうに笑った。
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洲本市南東部の由良地区。山と海に挟まれた漁師町だ。地域に分け入るシリーズ第2弾は、人口約2600人の小さな町の「いま」をリポートする。(荻野俊太郎)























