(この連載は、WHOの自殺報道ガイドラインに則り、精神医療の専門家の助言を受けています。記事中、個人名の敬称は省略しました)
短い文がタイムラインを埋める。
〈都合が悪くなって逃げだしたのは卑怯〉〈言葉の暴力に家族がおびえているのは自業自得〉。元兵庫県議・竹内英明の名前とともに、X(旧ツイッター)上に広がった言葉だ。

伊丹市在住の男性会社員(54)は、そんな投稿をスマホの画面で追いかけていた一人だ。これまでは政治に関心がなく、趣味らしい趣味もなかった。今も「竹内さんは、当事者が否定しているデマで斎藤さんをおとしめようとしてた」と信じている。
竹内が知事失職の「黒幕」と言われているのを知ったのは、兵庫県知事選が始まったころ。「NHKから国民を守る党」党首・立花孝志のユーチューブ動画を見た。公益通報の対応や職員へのパワハラなど複数の問題を追及されていた斎藤が、決して指摘を受け入れず、兵庫県政が大混乱していることはテレビで知っていた。
あんなに批判されているのに、なぜ知事は辞めないのだろう。疑問が膨らんだ。
だから立花の動画を見て「そうか、斎藤さんは悪くないから認めなかったのか。やっと合点がいった、って嫁と話をしました」。
立花が発信した「黒幕文書」には、竹内のほかに自民の県議らの名前もあったが、「あー、それはあんまり気にならなかった。テレビで見たのが竹内さんだったんで」と語る。
竹内を批判する投稿を見れば、「結構全部『いいね』を押してました」。
SNSを研究する東京大学教授の鳥海不二夫は、「竹内英明」「竹内県議」などの語を含むXの投稿を収集し、亡くなる前日までの拡散状況を分析している。
竹内への言及は「批判」と「擁護」に分かれていたが、広がり続けたのは批判の方だった。辞職当日の2024年11月18日には両方が一気に増えたものの、時間がたつほど、擁護の投稿はネットの海に埋もれていった。
批判の“核”をつくったのは、ごく一部のアカウントだ。鳥海によれば、「批判クラスタ(集団)」に属する投稿全体の拡散量のうち、およそ半分はわずか13のアカウントから発信されていた。ニュース系アカウントや、立花のアカウントなどだ。
知事選でもインフルエンサーたちの動画が大きな影響力を持った。投稿は一気に数千、数万単位で広がる。内容の真偽は確認されないまま、「面白いコンテンツ」として政治が消費されていた。
その一つが、タレントでユーチューバーの中田敦彦の動画だ。投開票日直前の11月15、16日、〈兵庫県知事選という究極のミステリー〉と名付けた2本の動画を公開している。
知事選の各候補者の主張を〈客観的な立場で解説する〉という形を取りながら、立花について「裏の主人公と言っても良い」「この方はものすごいことをやっている」と紹介し、「斎藤にパワハラの事実はなく、メディアや県議会がおとしめようとしている」という立花の主張をほぼそのまま伝えた。
その上で「今回の選挙はネットVSマスコミ。新時代の選挙戦とも言われている」「全ては有権者である県民の皆さんの判断」と締めくくった。動画は再生回数が200万回を超え、ネットニュースでも繰り返し取り上げられた。
立花は、斎藤の当選直後のネット番組で「最後の中田敦彦さんのユーチューブでもう決まりましたね」と振り返っている。中田は現在、一般公開していた動画を会員限定にしている。
兵庫県の話題は、知事選後もSNSを席巻した。竹内の死も、繰り返しインフルエンサーの関心の的になり、誤った情報が再生産されていく。
先の男性会社員は、竹内の死をニュースで知ったとき、こう受け止めた。「口を封じられたんじゃないかと思いましたね。竹内さん自身も操られてたんとちゃうかって」
流布された「黒幕」説はどうか。
「それは思わなくなりました。黒幕みたいな人は死んだりしないでしょうから」
竹内はなぜ追い詰められたのか。その過程はこの連載で詳しくみてきたが、この男性は今も釈然としないという。「メディアでは誹謗中傷が原因って言われますけど、竹内さんは発信をしていないし、僕がネットで見た限り、そこまで(誹謗中傷が)あったかなぁ」と受け止める。
竹内が亡くなったことについても、「責任は感じないですね。自分の『いいね』は、大量にある『いいね』の一つに過ぎないから」。
一方で、Xで「いいね」やリポストを押すのは慎重になった。
きっかけは竹内の死ではなく、昨年、兵庫とは関係のないSNSの発信に「いいね」を押し、それがのちにデマだと判明したからだという。
「何でもかんでも押したらあかんな、と。なんか、『いいね』を押すだけで誹謗中傷やデマを広げる片棒を担いでいるんじゃないかと思うようになりました」
■ ■
中田には、①「兵庫県知事選という究極のミステリー」の投稿で根拠とした情報、裏付け取材の有無 ②動画を会員限定にした理由 ③インフルエンサーの影響力やファクトチェックの必要性--などについて書面で質問した。事務所を通じて以下のコメントが寄せられた。(「民意×熱狂」取材班)
<書面コメント全文>
当社が運営するYouTubeチャンネルにおける当該動画は、選挙をめぐる論点や情報環境について解説する目的で、当時入手可能であった公開情報(公的発表、報道、当事者の発信等)を参照し制作したものです。
動画内で紹介した内容は、第三者の主張・見解を「主張として」取り上げた部分を含め、当社として特定の個人・団体に関する事実認定や、捜査・公判の対象となっている事項を断定するものではありません。
現時点でも、進行中の手続に関わる評価や、個別の責任の所在に関する見解表明は差し控えます。
また、その後の状況変化により、当該動画が切り取られて受け取られることで誤解や対立が助長されることのないように、公開範囲を見直しました。
当社としては、他者への誹謗中傷を助長しないことを前提に、今後も出典の明示、表現上の配慮、訂正・更新の在り方等を含め、発信の方法を継続して検討してまいります。
<竹内英明元兵庫県議の死から1年>プロローグ・「黒幕」と呼ばれて 誹謗中傷で人は死ぬのか
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