クラシック音楽界の若い才能を発掘する「第26回松方ホール音楽賞」の授賞式と記念コンサートが20日、神戸ハーバーランドの神戸新聞松方ホールで開かれる。審査は昨年8月にあり、台風の影響で中止したピアノ部門を含め、声楽、打楽器、木管楽器の計4部門に国内外から83人の応募があった。このうち2人が音楽賞、3人が奨励賞に輝いた。次代の音楽を紡ぐ新鋭の横顔を紹介する。
午後3時開演。一般千円、学生500円。同ホールチケットオフィスTEL078・362・7191=敬称略
(記事・藤森恵一郎、写真・中西幸大、長嶺麻子、三浦拓也)
■音楽賞 声楽(バリトン) 下林一也
柔らかな歌声と繊細さ持ち味
「ちょっとはホールと仲良くなれたかな」。歌い終えて舞台を退くと安堵(あんど)の表情を浮かべた。「雰囲気にのまれた」という初出場の前回からは一転。ここ1年ほど課題として集中的に取り組んできたフランス歌曲などで、持ち味の柔らかな歌声と繊細な音楽性を発揮し、音楽賞に輝いた。
大津市出身。高校の吹奏楽部でサックスを吹いていたが、キリスト教系の小中学校で賛美歌に親しむなど幼少期から身近だった歌の世界へ。京都市立芸術大の声楽専攻を首席卒業し、大学院修士課程を修了した。
佐渡裕芸術監督による兵庫県立芸術文化センター(西宮市)のオペラにも数多く出演し、昨年は県内各地で上演された「ドン・ジョヴァンニ」のハイライトコンサートでタイトルロールを任された。
別のコンクールに出場した際、フランス作品の歌唱に対し審査員から良い評価を得たこともあり、「長所として伸ばそう」と表現を磨いてきた。「音楽の繊細さ、和声の豊かな色彩感、その中にあるコケティッシュさなどいろいろ顔がある。それを見つけていくのがすごく楽しい」と充実感を漂わせる。
今後はオペラに限らず、縁があればミュージカルなど幅広い舞台に立つつもりだ。「年齢的にコンクールはそろそろ一区切り。これまでの活動、経験を土台に次のステップに進みたい」と前を見据える。記念コンサートの曲目はプーランクの「平和への祈り」など。大阪市在住、35歳。
■音楽賞 打楽器(マリンバ) コイチェフ・イバイロ
確かな技術で幅広い表現力
力強くエネルギッシュなリズムも、内面に沈潜するような静謐(せいひつ)なメロディーも確かな技術で弾き、幅広い表現力を証明した。ブルガリア出身の俊英が音楽賞を射止めた。
声楽家の母親の勧めで6歳から打楽器を習う中で、マリンバの音に心を奪われた。「木をそのまま鳴らしている楽器だから、大地の響きのような自然そのままの壮大な音が出せる」
ブルガリア第2の都市プロブディフから、父親の仕事の関係で9歳の時に来日した。中学2年からマリンバを再開し、兵庫県立西宮高校(西宮市)音楽科を経て、現在は京都市立芸術大で学ぶ。
これまで師事してきた講師からは音楽家としての主体性を伸ばしてもらったといい「とにかく自分をしっかりと持ち、理想をどんどん築くことを大事にしている」と語る。
今後については「何かになりたいわけではない。活動の幅を広げ、いろいろな場所でマリンバが弾けたらいいかな」と気負わずにイメージを膨らませる。大学卒業後はしばらく国内で演奏活動をし、その後海外で音楽の知識や経験を増やしたいという。
「日本はマリンバが盛んな国だけど、マリンバ奏者という概念が薄い国で演奏してみたい」。愛してやまない音の魅力を、世界のまだ知らない人々へ広めていくことが大きな目標だ。
記念コンサートの曲目は石井眞木「飛天生動3」。神戸市須磨区在住、22歳。
■奨励賞 声楽(ソプラノ) 斉戸英美子
音楽と真摯に向き合う
「お客さまにダイレクトに言葉を伝えられる」と、山田耕筰や中田喜直ら日本歌曲を中心に歌唱。明澄なソプラノで世界観をくっきりと表し奨励賞を手にした。
西宮市出身。中学3年の時に開館した兵庫県立芸術文化センター(同市)の初プロデュースオペラ「ヘンゼルとグレーテル」に合唱団で出演しオペラに興味を持った。大阪音楽大大学院を経てパリに渡り、名門エコールノルマル音楽院などで研さんを積んだ。
帰国後は地元を中心に活動を展開。2021年4月から市民オペラ「にしのみやオペラ実行委員会」を主宰し、主にフランスオペラの上演に取り組んできた。
松方ホール音楽賞は2回目の挑戦だった。「コンクールであることをあまり意識せず自分自身と向き合い、冷静に歌いきることができた」と息をついた。
今年は歌曲に取り組むといい「音楽と真摯(しんし)に向き合い、日々鍛錬したい」と力を込める。記念コンサートの曲目は山田耕筰「からたちの花」など。西宮市在住、32歳。
■奨励賞 打楽器(マルチ) 岡崎星音
打楽器の可能性を探究
打楽器が持つ無限の可能性に引かれている。「机やごみ箱だって音を鳴らせば楽器になる。そこら中に落ちている、いろんな可能性を見つけるのが楽しい」。マルチパーカッショニストとして飛躍が期待される二十歳の新鋭だ。
6歳からピアノを習い、9歳の時に滋賀県湖南市の吹奏楽団に入った。ちょうど歯が生え替わる時期で、歯並びへの影響を考慮し打楽器を選択。中高の吹奏楽部でも続け、日本を代表する打楽器奏者吉原すみれが教える武蔵野音楽大(東京)へ進んだ。
予選と本選で演奏した、山口恭範作のトムトムソロ「コナンドラム」では素直でダイナミックな演奏を聴かせ、伸びしろの大きさを感じさせた。「予選すら通らないと思っていたのに」と奨励賞に驚きを隠さない。
今後に向け「地元滋賀を音楽で盛り上げたい。クラシックの演奏会は行きづらいと感じている人にも楽しさを知ってもらいたい」と話す。記念コンサートの曲目はクセナキス「プサッファ」。東京都練馬区在住。
■奨励賞 木管(フルート) 北川聖香
心に響く音楽届けたい
本選前日に伴奏者が体調不良になり、急きょ代わりのピアニストを探して出場。「ばたばたしたけど、生きている音楽ができたんじゃないかな」。動揺するどころかむしろ吹っ切れ、伸び伸びと楽しんで演奏したことが奏功した。
堺市出身。中学の吹奏楽部でフルートを始め、大阪芸術大へ進んだ。卒業後、コンクールで結果が出ないなど悩む時期もあったが、恩師や仲間に支えられ「継続すれば見てくれる人はいるはず」と信じて練習に打ち込んだ。
本選では麗しい音色や軽快さを堪能できるフォーレの「ファンタジー」と、陰鬱(いんうつ)と激情を併せ持つリーバーマンのフルートソナタの対照的な2曲を奏で、高い技術と表現力を披露した。
「フルートが持ついろん顔を皆さんに伝えたい。一人でも私の音楽が心に響いてくれる人がいればうれしい」。記念コンサートの曲目はライネッケのフルートソナタ「ウンディーネ」より第1、3、4楽章。堺市在住、28歳。
























