創業100年の歴史を感じる月見茶屋=高取山

 山に登って、ギョーザとビールで疲れを癒やす。出迎えてくれるのは山を愛する女将(おかみ)。登山者たちをとりこにしてきた高取山の「月見茶屋」(神戸市長田区)が10月30日で閉店し、100年の歴史に幕を下ろした。(劉 楓音)

 「店が閉まるらしい」-。うわさを聞きつけ、27日、高取山に向かった。石段に息は上がり、汗はだらだら垂れてくる。三つの茶屋を越え、山頂に最も近いところに月見茶屋はあった。

 年季の入った扉をがらがらと開く。入り口近くにピンクのTシャツを着た女性が座っていた。「今日はギョーザだけや。良かったら席に座っとき」。店を切り盛りする川本眞智子さん(79)だ。立ち上がり、厨房(ちゅうぼう)の鉄鍋で焼いてくれた。出てきたギョーザは大ぶりで、キャベツなどの野菜がたっぷり入っていた。

 仕込みは夫の秋穂さん。かつて夫婦で板宿の中華料理店を営んでいた。何が入っているのか、眞智子さんも知らない秘伝のタレは濃くてぴりっと辛い。車で来るんじゃなかったなあ。他のお客さんが手にするビールがうらやましい。

 茶屋は1923(大正12)年に創業し、今年で100年を迎える。川本さんの自宅は高取山の近く。夫婦で茶屋に通っていた縁で、1995年11月23日、六甲全山縦走大会の開催日に店を引き継いだ。以来、午前4時半に高取山に登り、店を営んできた。

 「まっちゃん、来たで」。常連客は眞智子さんをそう呼び、ビールをつぎながら話し込む。「槍(やり)(槍ケ岳)は感動したやろ」。日本アルプスの名前を挙げ、山話に花を咲かせる。眞智子さんは、高校2年生で登山を始めた元祖山ガール。穂高や剣岳といった北アルプスを特に愛する。一方で高取山は低山だが、「低山は低山の良さがあるやん。四季折々ね」。閉店を惜しむ客には、「高取山は逃げへんからまたおいで」と笑顔で話しかける。

 眞智子さんのおかげで山登りを始めたという芝那育(ともやす)さん(45)は、「今やったら、SNSで山の情報を知るのがほとんど。けど、ほんまに登った人から、あの山こんなに良かったでって聞けるのは、リアリティーがある。ほんまによくしてもらった」と感謝する。

 体力の限界を感じて閉店を決意してからは、まっちゃんのファンが連日ご苦労さん会を開いたり、月見茶屋の写真集を作成したりした。「岳人の集ふ山茶屋山笑ふ」。眞智子さん自作の句だ。心のこもったギョーザを出しながら、こう話した。

 「長い間、ありがとうございました」