「日本人ファースト」を掲げる参政党が、参院選の台風の目となった。既成政党の政治に不満を持つ有権者の支持を得て、当初の目標を上回る議席の獲得が見込まれる。選挙中には排外主義や歴史修正主義といった批判を浴びつつも、党勢を拡大した背景に何があるのか。兵庫選挙区で街頭演説に訪れた有権者らに聞いて回った。「何が心に響いたのですか?」
■日常で接点なくても「外国人が怖い」
公示前の6月22日、神戸・三宮で神谷宗幣代表の演説を聴いていた50代の団体職員女性=神戸市中央区=はきっぱりと言った。
「やっぱり日本人ファースト。日本を大事にしたい。外国人が増えているから」
女性は「外国人は優遇されている」と感じている。電車内でマナー違反をしたり、近所のゴミステーションを荒らしたりするのも外国人のような気がしている。交流サイト(SNS)で流れてくる海外の暴動や外国人のトラブルを見ているうちに「外国人がいると治安が悪くなる」と思うようになった。
今は夜道で外国人とすれ違うのが怖い。勤務先にいる同僚の中国人はまじめで親切だ。身の回りにいる人は信じられるのに、漠然と「共生は無理」と話す。統計的に見れば、国内の外国人は増えながらも刑法犯認知件数は減り、外国人の摘発人数も増えていない。しかし、女性はそれを知っても考えは変わらないという。
「外国人が増えて、日本らしさが失われるのでは」と不安を口にして付け加えた。「外国人が日本のルールを守るでしょうか」
参院選兵庫選挙区に立候補した藤原誠也氏(37)によると、街頭に立って最も有権者から反響があるのが外国人政策だった。参政党に限らず、外国人を脅威とみなす政治家の訴えには差別との批判も相次いでいる。
■「見捨てられた感覚」既成政党への不満
同じ演説会場で、子連れの会社員女性がいた。40代。参政党を知ったきっかけは新型コロナ禍だった。「なぜワクチンを4回も5回も打つ必要があるのか」。国の対策に反発を覚えていた時、心を揺さぶられたのが参政党の主張だった。参政党は国が唱える感染症の危険性を疑問視し、ワクチンやマスクについても否定的。接種を強制されているように感じていた女性にとって、他の政党とは違って見えた。
今回の参院選で支持したのは「経済への不満」が大きい。「長年、自民党が政治をやっているけど、明らかに生活が苦しくなっている」。夫と共働きをして10年以上になるが、昇給で手取りは増えても物価上昇で相殺され、手元に残る分は変わらない。「そんな状況を政治は見てくれていない。見捨てられている感覚がある」。既成政党への不満を静かにぶちまけた。
公示翌日の7月4日、姫路市で演説を聴いていた元医療従事者の60代女性=加古川市=も憤っていた。
その矛先を自民党に向ける。「30年間経済は停滞しているのに、外国にお金をばらまいている。日本が終わると思った」。SNSで情報を集めるようになり、今年5月に参政党に行き着いた。「後ろ盾になる組織がなく、しがらみがない。国民の声を集めている」とうれしくなった。
日本人ファーストに賛否があるのは認識しているが、「ほかに希望を持てそうな政党がないでしょ」と漏らした。
最近、女性が気になったSNSの動画の内容は「国会議員の9割が帰化人」というもの。誰が作ったかは分からず、SNSにうそが多いことは知っていても不安は募る。「本当かしら?」
女性の心をくみ取るかのように、藤原氏は演説で「外国に日本が乗っ取られるかもしれない」と訴え続けていた。
■経済的不安、若手世代に響く「10万円給付」
経済的な不安は若い世代にも広がり、参政党を支持する動機になっていた。
選挙戦最終日の7月19日、加古川市に住む看護師の男性(28)は、同い年の妻と生後3カ月の長男を連れ、立候補した藤原誠也氏が市内で街頭演説する様子を見守った。
演説後に男性が話した。「夫婦別姓とかはどっちでもいいし、経済政策や子育て支援の方が興味ある」
同世代には、金銭的な余裕がないために子どもを持つことをためらっている人がいる。おむつ、食費、学費の積み立て…と出費がかさむ。自分たちも子ども3人はほしいが「厳しいかも」とこぼす。新型コロナ禍では「エッセンシャルワーカー(社会機能の維持に必要な仕事で働く人)」とたたえられた看護師の仕事も、収束後は収入が上がらない。
傍らの妻は「3人とも大学に行くとなったら、夫婦で馬車馬みたいに働かないといけない。多くの人が産むのをちゅうちょするのが分かる」と語った。現在、企業の事務職で育休中。「地元で働けるから」と選んだ仕事で、キャリアにこだわりはない。それでも子どもが1歳になれば復帰するつもりだ。
「母は『昔は子どもが3歳になるくらいまでは家で子育てしてた』って言っていた。自分もできるだけ長く子どもといたい。でも金銭的に無理」
もどかしい思いが募る中、「子ども1人につき1カ月10万円の支給」をうたう参政党の公約が、夫婦の胸に響いた。
選挙期間中、神谷代表を中心に参政党は何度も舌禍を招いた。排外主義のほかにも、女性の出産を巡る発言や在日コリアンの蔑称発言などが批判を受けた。
しかし男性は「批判はあまり気にならない」。今は、子育てが一番大切なテーマという。
■独自の歴史観「アジアは日本人が解放した」
兵庫選挙区で立候補した藤原氏が参政党を知ったのは33歳の時だった。「歴史認識が一番共感が大きかった。日本人は悪くないと」。演説でも、歴史が「政治の問題であると気づいた」と何度も回想した。
20歳から2年間ドイツに滞在し「日本を外から客観的に見て、素晴らしさを知った。それまでは外国に劣っていると思っていた」と語る。以降、歴史に関心を持つようになった。
参政党は、主流の歴史学とは異なる独自の見方を持っている。神谷代表が編著を務めたとされる「参政党Q&Aブック基礎編」(2022年発行、絶版)には、日本は16世紀の戦国時代から「あの勢力」に狙われていたと記載。それは「ユダヤ系の国際金融資本を中心とする複数の組織の総称」とし「『あの勢力』に逆らったことが大東亜戦争の原因でもあると考えられます」とつづる。その上で、日本軍兵士の「勇猛果敢」さを強調し、終戦後の歴史教育を「自虐的」と批判。愛国心の重要性を訴える内容になっている。
藤原氏もこうした見方に共感し「アジアは植民地で、日本人がそれを解放した」との見解を隠さない。
歴史観以外にも参政党は「新型コロナ禍でのマスク着用は『あの勢力』の情報操作」「加工食品の添加物で肉体的にも精神的にも多大なダメージが発生」「発達障害など存在しない」「小麦は戦後の文化」「食料自給率100%を達成しなければならない」などと発信してきた。有権者はコロナ、歴史、食…と、さまざまに異なる入り口から党の存在に触れて関心を持ち、外国人や経済への不安、不満を共有するようになっていた。
■各地に築かれた党組織「下から積み上げていく感じ」
経済や社会状況への不安、既成政党への不満の受け皿として躍進した参政党だが、2020年に結党して以来、組織は地域から党勢を拡大してきた。
内閣府男女共同参画局の公開資料や党の説明によると、現在、全国の党員数は約7万人。国会議員5人に対し、地方議員は約150人に上る。兵庫県内にも計2千人の党員とサポーターがいるとされる。
選挙演説を手伝った神戸市の党員男性(55)は「他の保守と同じ主張もあるけど、自分たちで活動するところは特別。下から積み上げていく感じが良いんです」と笑顔で打ち明けた。
党は全国の小選挙区ごとに支部を置き、それぞれにセミナーやメールマガジン配信、街頭活動を実践している。党の公式サイトによると、「創憲」をうたう参政党の憲法案(25年5月作成)も、全国の党員らがワークショップなどを開いてまとめた。教育勅語の尊重や愛国教育などと戦前を懐古するような価値観を色濃く打ちだす一方で、基本的人権や国民主権の記載が抜け落ちているとの指摘を受けている。
この党員男性は「歴史好き」で、安倍晋三・元首相のファンだった。22年に安倍氏が殺害されると、自民党を応援する気持ちも失った。ユーチューブで歴史についての動画を探していて神谷代表を知り、2年前に入党した。
神谷代表の演説を聞くたびに「日本はまだまだやれるんだ」と胸が高ぶる。「神谷さんはパーフェクトな存在だと思う」。はつらつとした表情で語ると、ほかの党員らとの談笑に加わった。
■国籍? 精神性? あいまいな「日本人らしさ」
選挙期間中、党勢の拡大が伝えられるにつれ、藤原誠也氏の演説は「日本人」というナショナリズムと、分配型の経済政策をより強調していく。
7月16日、藤原氏は「『日本人』の定義は?」という記者の質問に対し、「まずは国籍」と答えた上でこう述べた。
「あとは日本人としての精神というものが関係してくると思いますね。伝統や地域のルールをしっかり理解しているとか、そういうのも含まれると思う」
党員という神戸市の女性(58)も「日本が壊れていくような不安がある。日本人らしさを大切にしてほしい」と話す。しかし、日本人らしさの定義については「難しいね…」と戸惑いの笑みを浮かべる。別の党員女性(56)は「ゴミを捨てる人は日本人とは違うのかなと思う」とあいまいに口にした。40代の女性支持者は悩んだ末に「日本を大事に思っていたら、日本人でいいんじゃないか」とした。
選挙戦最終日の19日夜、神戸・元町で行った最後の演説で、藤原氏はこう叫んだ。
「『日本人らしさ』と聞いて、みなさんの頭に思い浮かぶもの。それを守りたい」
日本人らしさの中身に触れることはなかったが、聴衆からは熱狂的な拍手が湧き起こった。(参院選取材班)