(この連載は自死に関する記述が含まれます。執筆はWHOの自殺報道ガイドラインに則り、精神医療の専門家の助言を受けています。記事中、個人名の敬称は省略しました)

竹内英明元県議の遺影を抱え、思いを語る妻=1月15日、姫路市内

 一人の人間の死から1年がたつ。

 兵庫県議会議員だった竹内英明。50歳だった。2025年1月18日。阪神・淡路大震災から30年を迎えた日の翌日、彼は自ら命を絶った。

 その2日後、政治団体「NHKから国民を守る党」党首、立花孝志がユーチューブに動画を投稿している。タイトルは〈批判を受けて自殺する政治家は今すぐ辞職した方がいいです〉。

 「もちろん誹謗中傷もあったんでしょうけど、自ら命を絶つようなことだったですかね」

 その5日後。

 「本当はあの世に持っていかなきゃいけない秘密があったように僕は思います」

 翌月には、街頭演説でこんなふうに話す別の動画がアップされている。

 「政治は戦いやねんて。負けた方は死んでいくねんて。ほんまはそら死ななくてええで。でも弱い奴はしゃあないやんか」

竹内英明元県議が命を絶った2日後に投稿された立花孝志氏の動画

■無数の暴力的な言葉

 一連の動画にはいくつもの「いいね」が押され、コメント欄には立花に同調する声が続いた。

 〈政治家が誹謗中傷で死ぬはずがない〉

 〈やましいことがあったから自殺したんだろう〉

 動画は、より視聴しやすい切り取き動画として再生産される。交流サイト(SNS)は視聴者が反応しやすい刺激的な「コンテンツ」が表示されやすい。そして、竹内の死を取り上げた投稿者の下には、再生回数に応じた収益が入る仕組みがある。

妻に抱かれた竹内英明元県議の遺影。穏やかな表情をしている=1月15日、姫路市内

 今、私たちの目の前には彼の遺影となった写真がある。遺族から提供してもらったものだ。写真の中の彼は穏やかな顔をしている。

 2024年に兵庫県で県政をめぐる告発文書問題が浮上して以降、彼には長い間、知事降ろしの「黒幕」や「疑惑」と称された言説と、無数の暴力的な言葉が降り注いでいた。それは死してなお、やむことがない。

 「黒幕」とは、表には出ずに裏で物事を操る人のことだ。彼は本当に黒幕だったのか。

 竹内の死から10カ月後の昨年11月。

 兵庫県警は名誉毀損容疑で立花を逮捕し、神戸地検が起訴した。起訴状では、立花が動画や街頭演説で述べていた六つの内容を名誉毀損罪として問うている。

 竹内が警察の取り調べを受けていたという発言。亡くなった告発者と、最後に電話で話していたという演説。告発者遺族のメールを偽造したという話などだ。

 死後の名誉毀損が罪に問われるのは、生前の場合よりも要件が厳しい。内容が明白に虚偽であるときに限られる。

 警察と検察が捜査を尽くした結果、6件は生前・死後のいずれも犯罪の要件を満たしていると判断した。

 しかし、SNSの画面の中で何度も繰り返されるうち、これらの「疑惑」は次第に「真実」のように受け止められていった。

 SNSは情報を「民主化」したと言われる。誰もが自由に発信できる。権力者の不正を暴くこともできる。一方で、責任の所在や根拠があいまいな言葉は、数の力で一人の人間を飲み込むことがある。

兵庫県庁=2024年11月、神戸市中央区下山手通4

 県会議員は選挙で選ばれ、県政をただし、税金の使い道を監視し、二元代表制の下、知事の判断を問う。

 私たちが失ったのは「県民の代表」だ。県議を追い詰めたその背後には、誹謗中傷という手段や、根拠のない噂を「そうかもしれない」と受け止め、共有した多くの人々の存在がある。

 私たちは、彼をよく知る数十人に取材してきた。竹内英明という一人の地方議員がどんな政治家だったのか。どんな言葉を浴びせられ、それがどう広がり、彼を追い詰めたのか。

 その道筋を追っていく。決して美談にするつもりはない。

 おそらく、その物語のどこかに、スマートフォンやパソコン画面を見つめる私たち自身の姿も映り込んでいるはずだ。