客からの暴言や暴力、理不尽な要求などの「カスタマーハラスメント(カスハラ)」が、社会問題になっています。威圧的な言動や従業員の長時間拘束で疲弊する現場があり、土下座を強要して刑事事件になったケースもあります。企業などは、どんな対策を取ればいいのでしょうか。カスハラ問題に詳しい弁護士法人「ALG&Associates」神戸法律事務所(神戸市中央区)所長の小林優介さんに聞きました。(聞き手・斉藤正志)
■「正当なクレーム」と「不当なクレーム」
-カスハラとは、どういった行為のことをいうのでしょうか。
「いわゆるクレームというのは、商品やサービスへの苦情や問題点を伝えることです。それは『正当なクレーム』『不当なクレーム』に分けられます」
「『こう改善すればいいのでは』『こういう問題点がありました』といった正当なクレームは、商品やサービスの改善につなげることができます。これに対し、不当なクレームは要求する内容、手段が不当なものを指します。不当なクレームに、無言電話など要求を伴わない『嫌がらせ』を含めたものがカスハラに当たります」
-要求内容、手段が不当とはどういうことですか。
「例えば『土下座しろ』や『迷惑料100万円をよこせ』などは、要求内容が不当です。また要求内容が正当だったとしても、怒鳴ったり、暴力的だったりするのは要求手段が不当です。何度も求め続けることや、何時間も居座ることも、これに当たります」
「正当なクレームは要求内容が正当で、かつ手段も正当なものを言います。カスハラかどうかを判断するには、正当なクレームなのか、不当なクレームなのかの見極めが大事になります」
■とりあえず謝まらない
-正当か不当かを見極めるためには、どうすればいいですか。
「まずは事実関係を確認するために、ヒアリングをしてください。5W1H(いつ・どこで・誰が・何を・どのように)を確かめます。その上で要求は何なのかを聞き取ります」
「例えば食品を食べて体調を崩し、病院に行ったのなら診断書や領収書を出してもらって、その事実が本当にあったのかを調べます。原因を調査して企業側に落ち度があるのなら、きっちり対応しないといけません」
-相手が感情的になって聞き取りが難しいケースも考えられます。
「『とりあえず謝っておけばいい』と安易に謝罪してしまうと、要求が過剰になることがあります。法的な責任を認める謝罪ではなく、『ご不便をおかけして申し訳ありません』『お時間をいただいて申し訳ありません』など、道義的な責任を認める謝罪にとどめ、相手を沈静化させるのも方法の一つです。『会社としてきちんと対応したいので、事実関係を教えていただけますか』などのやりとりが考えられます」
■「従業員任せ」にしない
-要求内容があいまいなケースもあります。
「例えば『誠意を見せろ』という客がいたとしても、誠意は人によって捉え方が変わりますし、そもそも会社が提案するものではありません。やはり具体的に何を要求しているのかをはっきりさせる必要があります」
-事実関係や要求を確認した後はどうすればいいですか。
「その要求に対して、どのように対応すべきかということを、現場の従業員ではなく、会社として調査し、判断します」
「レシートや診断書を出してもらって、その場で従業員が回答せずに、会社として検討します。法的責任があるのか、どこまで対応するのかを組織で考え、会社として回答します」
-組織で対応するのが大切なんですね。
「ありがちなのが、従業員任せにして、疲弊してしまうケースです。従業員が精神的にダメージを受けると、仕事へのモチベーションの低下や離職につながりかねません。カスハラに対しては、会社としてマニュアルを作り、対応しなければなりません」
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【小林優介(こばやし・ゆうすけ)】 兵庫県出身。神戸大法学部を2010年に卒業後、立命館大法科大学院に入学。14年に弁護士登録。15年、弁護士法人「ALG&Associates」に入り、東京法律事務所で勤務。同法人の千葉法律事務所所長代理を経て、19年の神戸法律事務所開設に伴って所長に就任した。