日ごとに深まる秋。紅葉のシーズンです。県内の丘陵地で見られる里山もだんだんと色づいてきました。
紅葉といえばイロハモミジなどを思い浮かべる人が多いかもしれませんが、身近な里山での主役はコナラやアベマキでしょう。これらはドングリをつけるブナ科の落葉広葉樹です。その葉は秋に黄色や黄褐色、冬の訪れとともに茶色へと変わり、山を渋色に染め上げます。
紅葉から落葉、そして春の新緑という鮮やかな変化がある一方、コナラやアベマキの里山そのものは変わりがないように感じられるかもしれません。しかし、中長期的な時間スケールでみると、こうした里山は今まさに変貌への過渡期を迎えています。
博物館近くの里山で調査したところコナラの多くは高木や亜高木で、稚樹はごく少ない状況でした。これは、人の手が入らなくなり樹木の生い茂った状態では若いコナラが定着できず、将来的に衰退することを示しています。アベマキも同様でした。かつては多かったアカマツも松枯れの影響で大半が枯死していました。
一方、コナラと同じブナ科に属する常緑広葉樹のアラカシは稚樹が多く生育していました。里山の上層は現在、主にコナラやアベマキによって占められていますが、その寿命が尽き枯れた時、下層に控えるアラカシが新たに林冠を構成すると考えられます。
こうした高木種の入れ替わりが面的に生じることで、里山の景観は落葉広葉樹林から年中緑の常緑広葉樹林へと移り変わってゆくでしょう。
では、里山の樹木が全て常緑広葉樹になるかと言うと、それはないと思われます。例えば、土壌の浅い岩場などの立地では常緑広葉樹の少ない場所が存在します。また、山の斜面では倒木や土砂の移動・崩落が起こりますが、これらは明るく開けた環境を作り出します。そこにはアカマツのような陽樹が定着し、若い林をつくるでしょう。ただ、こうした先駆的な林が山の全面に広がることは、伐採などが大規模に行われない限りなさそうです。
秋や春の行楽シーズンには、里山をバックに記念撮影をする機会もあるのではないでしょうか。今は紅葉や新緑で彩られている里山も、いずれは常緑広葉樹が目立つ深緑の、現在とは趣の異なる姿で背景に写りこむことになりそうです。