山田量崇主任研究員
山田量崇主任研究員

 最近、兵庫県立大学付属中学校の生徒たちがカメムシのにおい成分から芳香剤を作り出すことに携わったというニュースがありました。材料はマツヘリカメムシという北米原産の外来種です。時に大量発生し、家の中に侵入することのある不快な害虫としても知られています。一方で、この種は青リンゴのような清涼感のあるにおいを出します。そのにおいをうまく利用して、嫌われもののカメムシを社会の役に立たせたいという中学生の思いから始まった研究でした。

 カメムシの世間一般のイメージはけっして良いものではありません。カメムシイコール臭いというだけでなく、秋から冬にかけて屋内に侵入する不快な害虫としてのイメージもあるでしょう。しかし、カメムシの仲間にも人間にとって有益な種がたくさん存在します。有益の概念はさまざまですが、ここで紹介するのは、農作物の害虫の天敵としてのカメムシと食用としてのカメムシです。

 農作物の害虫の天敵として世界的に有名なのは、「ヒメハナカメムシ」の仲間です。体が1~3ミリのとても小さなカメムシですが、アザミウマ類などの防除が難しい微小な害虫を効率よく捕食します。農薬を無駄に使用することなく害虫を減らすことができるため、環境にやさしい天敵資材として役に立っています。ヒメハナカメムシ類は世界に約80種知られていますが、実に20種以上が詳細に研究され、そのうち数種が生物農薬(天敵製剤)として商品化されています。日本でも複数の農薬メーカーから販売されており、私たちの食卓を陰ながら支えてくれています。

 タイやラオスなどインドシナ半島の国々には、食虫文化が根付いています。海から遠く畜産があまり発達しなかった山岳地帯では、周囲の環境から簡単に手に入る昆虫類が人々の貴重なタンパク源でした。利用される昆虫類も多岐にわたります。食材として売られる昆虫類の中で特に人気なのがタガメ(タイワンタガメ)です。日本のタガメは全国的に絶滅の危機に瀕(ひん)しており、タイでも最近は少なくなっているようですが、日本ほどではありません。

 タガメが放つ独特のにおいが人気の秘密で、市場によく出回っています。魚醤(ぎょしょう)(ナンプラー)、塩漬け、唐揚げなどに加工されるほか、火であぶってすりつぶして香辛料と混ぜて食べたり、蒸したタガメをそのまま食べたりすることもあります。主に成虫が食されていますが、卵も大変な珍味になるようです。実は日本でも、タガメの卵が食用となっていたという報告があるので(食用及薬用昆虫に関する調査、1919年)、案外美味なのかもしれません。

 忌み嫌われるカメムシの中にも、このように人間の役に立っているものも存在します。この事実がきちんと認識されれば、むやみに嫌うばかりでなく、その見方を少しは変えていただけるのではないかと期待しているところです。