JAXA調布航空宇宙センターの大型低速風洞で、ウミネコ剝製の風洞実験に取り組む学生
JAXA調布航空宇宙センターの大型低速風洞で、ウミネコ剝製の風洞実験に取り組む学生

■動植物、文化財から着想

 宇宙空間で動作する人工衛星は、ロケットなどの輸送機に積んで運ばれるため、軽いだけでなく、小さく収納し、使う時に広げたり、組み立てたりできる必要があります。また、飛行機の翼の形も状況に応じて自由に変えることができれば、燃費などの性能が向上する可能性があります。

 私たちの研究室では、このような軽くて形を変える航空宇宙機の構造やしくみを考える研究に取り組んでいます。人工衛星の可動部に使う固体潤滑剤の寿命予測や、軽くて効果的な衝撃吸収材・振動抑制材の提案、大型構造物の形状計測などです。

 実際のミッションに直接かかわるテーマも研究の対象としていますが、特に力を入れているのは、長い進化の流れの中でさまざまに変化する環境に適応してきた生物の形や構造から着想を得る研究です。

 例えば、浮力によって微小重力と同じ環境となる海中に生息するプランクトンは、約5億年前に出現し、その骨格は化石となって岩石中に残ります。その形がどのように進化してきたかを地質学者や数理科学者と一緒に調べ、微小重力下での最適構造を探求しています。ほかにも、アンテナや太陽発電に利用する大面積の薄膜を小さく折り畳み、宇宙空間で確実に広げるために、セミやトンボの羽が羽化直前にどのように折り畳まれ、どのように展開するか、マイクロエックス線CTを使って調べています。

 最近は、山階鳥類研究所(千葉県)の鳥類学者と共同で、ウミネコやアホウドリの動く剝製を製作し、宇宙航空研究開発機構(JAXA)の大型風洞で翼の性能を調べる実験も行っています。

 さらに、形を変える航空宇宙機の形状を計測する3次元形状計測の技術を使って、埴輪(はにわ)や石室など文化財の計測や得られた形状データの活用方法を考える研究も始めています。

 これまでにない新しい航空宇宙機の創造と実現、関連する技術の展開を目指して、さまざまな分野の研究者と連携しながら、学生たちと日々楽しく研究に取り組んでいます。